20年ぶりの円安水準、不動産投資への影響は?

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円安が急速に進んでいます。先月28日には1ドル=130円を突破するなど、20年ぶりの円安水準だとして大きく報道されています。5月9日時点でも1ドル=131円と、依然として円安は続いています。

このところ、ニュース番組などの報道でも円安の話題を取り上げられる機会がかなり増えています。ただ、なぜここまで円安が進んでいるのか、そして円安が進むことで、不動産市場や不動産投資にどのような影響が及ぶのか、よく分からないという人も多いことでしょう。

そこで今回は、20年ぶりの円安水準となった背景や、不動産投資家の方が知っておくべき「不動産投資と円安の関係」について、少し掘り下げて解説していきたいと思います。

そもそもなぜここまで円安が進んだのか?

まずは、直近1年間の米ドルと円の為替相場チャートを見てみましょう。このチャートを見ると、3月からわずか2カ月程度の間に、1ドル115円から1ドル130円に円安が進んだということが分かります。これは言い換えれば、2カ月の間に、円がドルに対して13%(15円÷115円)安くなっていることになります。

3月から5月にかけ、1ドルが115円から130円と急速な円安が進んだ(出典:TradingView)

外国通貨との比較という観点では、円安は収入や資産が減少することであると言い換えられます。2カ月間で資産が1割強減少したらどのように感じるかと考えれば、この急速な円安がどれほどのインパクトを持つのか、イメージができるのではないでしょうか。

では、なぜここまで円安が進んだのでしょうか。専門家による解説では「海外と日本との金融政策の違い」を理由にしているケースが多くなっていますが、これについては筆者も同じ意見です。ドル高円安が進行した背景には、「米国の利上げによって米国債利回りが上昇する一方、日本は金融緩和の姿勢を維持しているため、国債の利回りが変わっていない」という構図があります。

なぜ金利が為替相場に影響を及ぼすのでしょうか? 非常に単純に言えば、金利が高い通貨と金利が低い通貨がある場合、金利が高い通貨の方が利息を多くもらえるので人気が出ることになるからです。そのため、金利が低い通貨(円)を金利が高い通貨(ドル)に交換する(=金利が低い通貨を売って、金利が高い通貨を買う)ことが多くなり、高金利通貨の価値が上がります。これが、現在の円安ドル高の基本的な構図と考えて良いでしょう。

金利の差と為替レートが連動することは、以下のグラフからも分かります。このグラフは、ドル円相場と日米5年金利差を示したものです。

出典:日本総合研究所「為替相場展望」2022年4月

日米の金利差とドル円相場はかなり近い動きをしていることから、金利差が為替レートに与える影響を理解できるでしょう。近時の急速な円安の進行は、金融引き締めに向かっている米国など海外各国と、金融緩和を維持する日本との政策の違いが強く意識された結果と言えるのです。

もちろん、為替レートは金利だけで決まるわけではなく、その国の経済状況も影響します。例えば、いくら金利が高くても、現在経済制裁を受けているロシアのルーブルを買いたいという人は少ないでしょう。経済に不透明感が出てくると、やはり軍事・経済大国である米国の通貨であるドルを持ちたいという個人や法人、投資家は増えるのです。

米ドルが一強となる? 日銀の金融政策がダメ押しも

物価高が止まらない米国にとって、目下の課題はインフレの抑制です。米国はウクライナ情勢、対ロシア制裁をインフレ加速リスクと捉えており、インフレ抑制のために早期に利上げを実行していくスタンスを明確にしています。実際、FRBは5月4日の会合で22年ぶりとなる0.5%の利上げを決めており、話題となりました。

世界最大の経済大国である米国が金利を引き上げているのですから、中国の人民元、そして豪ドルやカナダドルなどの資源国通貨も、米ドルに対して下落することになります。欧州も、ロシアが東欧のポーランド、ブルガリアへの天然ガスの供給を停止した影響を受け、ユーロも弱含みになっていく可能性があります。世界では米ドルだけが強くなる可能性があるのです。

そして、円安の流れにダメ押しをしたのが、日銀の政策です。

4月28日に開催された日銀の金融政策決定会合では、金融緩和政策の継続を決めたのみならず、長期金利を抑制する国債の「指し値オペ」を毎日実施すると発表しました。指し値オペとは、簡単に言えば、「長期金利を0.25%以下に抑えるために、国債をいつでも無限に買い入れる」ことです。

この指し値オペは、日銀による「長期金利の上昇は認めない」という決意のようなものだと、筆者は考えています。この日銀の発表が、日本と米国をはじめとする他国との金利政策の違いをさらに際立たせることになります。3月までは日本円が他の通貨に対して弱かった為替相場でしたが、4月はドルが独歩高(ある通貨のレートだけが上昇すること)だったと筆者は認識しています。5月以降は日本円が他通貨に対して弱くなる相場となるかもしれません。

以上をまとめると、日本が低金利政策を続けていること、そして米国の金利上昇や世界経済の不透明感で基軸通貨であるドルが世界的に強くなっていることが、現在の円安の要因と思われるということになります。

円安で日本の不動産は魅力が増す?

では、円安が日本の不動産業界や不動産投資に与える影響として、どのようなことが考えられるのでしょうか。

まず、日本に不動産投資を考えている外国人から見た場合、円安であることが「価格の低下(割安感上昇)」の効果をもたらすということが挙げられます。円安の効果かは不透明ですが、実際今年に入り、米金融大手のゴールドマン・サックスが、日本の総合商社・双日と賃貸事業への投資を行うと発表したり、シンガポール政府投資公社が西武HDからホテル施設を1500億円規模で買収する、といった発表がなされたりしています。

そもそも日本は世界第3位のGDPを誇る国であり、不動産市場の規模は他国と比べても大きなものがあります。そして規模が大きいだけに、投資の効率性(大きな金額で投資が可能)と流動性(物件の売買が活発)があると言えます。さらに日本は民主主義国家であり、政治も安定していると言えます。法的体系もしっかりしており、外国人であっても所有権はきちんと保護されています。

不動産の投資利回りは低いものの借入金利も低く、投資利回りと資金調達費用の差(イールドギャップ)も確保されています。そして、テナントは他国に比べると簡単に退去せず、賃料があまり変動しないため、日本の不動産は安定性が高いともされています。このようなことを勘案すると、日本という国の不動産は、海外投資家にとって悪い投資先ではないと言えるのです。

また、他国に比べると日本の不動産は経済規模に比べて価格水準が低いと言われることもあります。以下はマンション・高級住宅(高級レジ)の価格水準の都市比較です。

東京の高級レジデンスは、価格としては香港や台北には負けています。このことから、他国の投資家からすると、経済規模の割には価格が低いと見えている可能性はあります。

一方で、以下のグラフが示す通り、東京の高級レジデンスは、東アジア諸都市の高級レジデンスに比べて賃料水準が高くなっています。

つまり、利回りが悪くないということです。これも東京(そして日本)の不動産を魅力的なものに見せている可能性があるでしょう。

さらには、日本国の通貨である日本円が下落した場合には、海外投資家から見ると「為替でも儲ける」チャンスが来ることを示します。

海外投資家が収益物件へ投資する場合、通常は、賃料収益(インカムゲイン)、売却収益(キャピタルゲイン)を狙います。そして日本円は歴史的に見ると割安です。不動産投資は長期間に渡るのが一般的ですから、円が割安なうちに投資し、投資を日本から回収する時に日本円の価値が高くなっている(=円高)、すなわち為替差益をも期待できるのです。

同様の考え方として、円安が進んでいるとコロナ後に外国人観光客が日本に押し寄せてホテルの稼働率が上昇したり、民泊が再び活発になったりする可能性はあるものと思います。

ビジネスでの出張はコロナ前の水準には戻らないかもしれません。Webでの会議が一般化した今となっては、海外出張の意義は厳しく問われることは間違いないからです。一方で、個人にとっての旅行体験は、Webで完全に代替できるものではありません。コロナ禍が収束すればレジャー需要はコロナ前の水準に回復することは十分に期待できるでしょう。

日本では円安が進んだことが報道され、「悪い円安」と認識され始めています。では、日銀は円安を放置するのでしょうか。中央銀行として円安抑制に動いていくことはないのでしょうか。

この点について、足もとでは日銀が円安抑制に動くことは期待薄です。前述の通り、4月28日に開催された日銀の金融政策決定会合では、金融緩和政策の継続を決めたのみならず、長期金利を抑制する国債の「指し値オペ」を毎日実施することを日銀は決定しました。これは、日本円を低金利に誘導し続けるということです。他国と金利差が広がる政策ですので、円安を抑制する方向ではありません。

また、円安によって輸入物価が上昇しているという見方もありますが、輸入物価上昇の要因は、円安というよりも資源・エネルギー価格の世界的上昇によるところが多いものと思われます。内閣府のミニ白書「日本経済2021-2022」でも、円安が交易条件に大きな影響を及ぼしているわけではないと解説されています。

日銀からすると、足下の環境は自らとは直接の関係がないと考えている可能性があるでしょう。すなわち、資源・エネルギー価格上昇への対応は、日銀ではなく日本政府がやるべき、という考え方です。これには一定の合理性があります。

以上を鑑みると、日銀としては国内の需要を喚起するために、まだまだ金融を緩和しておきたいということを考えているものと思われます。

筆者としては、円安抑制のために日銀が金融緩和策を転換して利上げを行うこと、それによりローン金利が上昇するといった可能性は、短期的に見れば低いと考えています。ただし、中長期で見た場合には、資源価格の上昇が続き、円安がさらに進むようだと、日銀としても何らかの対応を迫られることになると思います。

海外投資家の進出で、出口戦略が変わる?

不動産市場にとって、買主の動向は非常に重要な情報です。コロナ禍において人の往来は分断されましたが、それでも経済は世界とつながっています。

ロシアによるウクライナ侵略は、経済のブロック化、分断化を進める可能性があるでしょう。また、地政学的なリスクというものを改めて世界に知らしめました。

世界の不動産投資家は、さまざまな国を比較しながら、投資する国、アセットタイプをますます考慮するようになるでしょう。日本の個人投資家に米国株式投資が人気なのも、仮想通貨が投資の選択肢に入るのも、リターンを求めるとともに、リスクを少しでも分散させたいからです。世界の不動産市場は、不動産という極めてローカルなものを扱いながら、さらにグローバルになってきています。

このような中においては、民主主義国家であり安定していること、世界で相応の規模の経済を持っていることは、日本の強みになります。現在の円安では、その日本の通貨が安くなっているのです。

これをチャンスと捉え、日本の不動産市場に参入してくる海外投資家が発生する可能性は十分にあります。そしてこの動きは、国内不動産投資家にとってもチャンスとなる可能性があります。買主が新たに出現してくれるのですから、自らの投資物件の出口として、海外投資家に売却してもよいのです。

また、逆に収益物件を購入しようと考えた時には、海外投資家が競合になるかもしれません。その場合に備えて、今のうちにさらに物件を購入しておくのか、違うアセットタイプに投資しておくのかなど、国内不動産投資家にとってもさまざまな選択肢を与えるという観点で、円安の影響は無視できません。

補足解説:「悪い円安」とは?

円安が進んでいる中で、現在は「悪い円安」であるという話を聞くようになってきました。現在の状況をより理解しやすくするため、この「悪い円安」についても補足として解説しておきましょう。

日本では長らく「円安は日本にとって良い」とされてきました。円安になれば、日本の製造業の競争力が上昇する、日本の輸出が増える、日本の雇用が増える、という理屈です。しかし、現在の日本は輸出で「儲けている」国ではありません。以下のグラフは、日本の輸出入額及び差引額の推移(1950~2020年)です。

出典:財務省貿易統計「最近の輸出入動向」

このグラフを見れば分かるように、日本は1980年代から2000年代前半までは輸出額が輸入額を大幅に上回っていました。このような時代においては、円安は輸出競争力を高める方向に作用し、それが日本にとってもよいことだった、と言えるでしょう。

しかし、現在の日本は輸出額と輸入額が拮抗しています。日本は決して「輸出で儲けている国」ではなくなっているのです。

日本は原油・LNG(液化天然ガス)のような燃料・エネルギーを輸入する必要がある国です。ロシアのウクライナ侵略をきっかけに、これまでも上昇基調だった原油・LNGに加え、さらに食料品なども上昇していくことになります。

資源価格・食料品価格の上昇が急であるため、輸出と輸入が拮抗している日本において、輸入額が大幅に超過する可能性が出てきました。

日本は貿易で儲ける国ではなくなっていると述べましたが、貿易収支とサービス収支(旅行、金融サービス、知的財産権使用料等の収支)、第一次所得収支(対外金融債権・債務から生じる利子・配当金等の収支)などを加えた経常収支において、日本はまだ黒字国です。要は、貿易やサービス収支ではなく、過去に実施した海外投資から得られる収益まで考えると、日本は海外との取引において黒字だということです。

ただし、日本の2021年12月および2022年1月の経常収支は赤字となりました(2月は速報値で経常収支は黒字です)。資源価格の高騰に伴う輸入金額の増加が、経常収支の赤字要因のほぼ全てと言えます。特に2022年1月の輸入金額は8兆1663億円と、前年比でプラス39.9%の増加となりました。

資源価格・輸入食料品価格の上昇が急で、経常収支が赤字の月が出てくれば、海外からの資金受取よりも海外への支払額が多くなっていることになります。経常黒字だからこそ、日本の円は問題ない、もしくは日本の財政は国内でファイナンス出来ると考えているような人にとっては不安を覚えるでしょうし、当然ながら円安よりも円高を望む声が多くなるでしょう。

そして、消費者にとっても円安のマイナスの側面が感じられるようになってきました。例えば、消費者物価指数でみると、2022年3月の電気代は前年同期比+21.6%、ガス代が同+18.1%と大幅に上昇しています。これが円安効果によるものか、資源価格そのものの上昇によるかは、消費者にとっては大事なことではなく、円安がニュースで取り上げられたタイミングと相まって円安のデメリットとして認識されるようになってきています。

悪い円安には明確な定義はありません。しかし、円安が続く中で、ガソリン、電気、ガス、食料品、日用品などの値上げが相次ぎ、消費者が体感する物価が上昇し、個人消費に悪影響を与える事態になると、これは「悪い円安」と呼ばれるようになってきます。

円安にはメリットもデメリットもあります。デメリットを感じる個人や企業が多くなればなるほど、悪い円安とされるようになるのでしょう。

これまで、為替について考慮していなかったという不動産投資家は多いと思われます。しかし、久しぶりの大幅な円安局面にある今、世界の不動産投資家の動きについて思い馳せても良いかもしれません。

                                                 株式会社寧広