家を持ち主が売却し、賃料を払って住み続ける
物件価格は市場の6~8割、賃料は高めに設定可能
国土交通省がこのほど、所有者が持ち家を売却し、その後も賃料を払って住み続けられる方式「リースバック」のガイドブックをまとめた。リースバックの特徴や取引事例、そしてトラブル例などを分かりやすく解説してあり、知識を得るには十分な内容となっている。
リースバックの対象として売られる物件の価格は市場価格の6~8割程度と安く、住み続ける人からの賃料は高めにとれるとされる。不動産投資の有望な対象となりうるので、HP上で無料で入手できるガイドブックに、一度目を通してみてはいかがだろう。
国交省が早くからリースバックをめぐる環境整備に乗り出していたことは、2020年1月21日配信の「入居者募集は不要、利回り10%超えも?『リースバック』新たな投資先に!政府が2020度中に指針」でも紹介していた。
改めて、今回、国交省がまとめたガイドブックを見てみよう。
まず、リースバックを次のように定義する。
「住宅を売却して現金を得て、売却後は毎月賃料を支払うことで、住んでいた住宅に引き続き住むというサービスです」
そして、4つの特徴と、それぞれに伴う注意点を挙げている。
①住み慣れた自宅に住み続けながら一括で資金を受け取れるが、通常の売却や融資等と比較・検討することが重要
②所有に伴う固定資産税等の支払いは不要だが、家賃などの支払いが生じる
③自宅が自分の持ち物でなくなり、自由に設備を改変・設置したり、契約の内容によっては希望通りの期間住み続けたりできるとは限らない
④広告等で買い戻されると表示される場合もあるが、契約条件等に注意
①、②は文言通りで、よく分かると思う。
③の後半は、定期借家契約の場合などを想定している。不動産投資家は詳しいと思うが、定期借家契約の場合、あらかじめ決めた契約期間が過ぎれば、大家は契約の更新を拒むことができる。そのことを、リースバック利用者の目線から語ったものだ。
④は、利用者は一度売却した自宅を買い戻せることもあるが、買い戻せる条件や買い戻し価格によっては買い戻せないことがあることを示している。契約時の条件の確認が重要だとしている。
高齢者が高齢者施設への入居待ちで使うケースも
違約金や契約内容をめぐるトラブルは多く、貸す側も注意を
次に、具体的な取引事例も挙げた。その一つが、高齢者が高齢者施設への住み替えにリースバックを利用した例だ。
このケースでは、入居を希望する高齢者施設が現時点では満室なため、入居可能日までリースバックした元の自宅に2年間の定期借家契約で住み続け、手にした売却代金を、高齢者施設への入居のための一時金に充てた。
定期借家契約は、借主のほうから中途解約できる条項を盛り込んだという。
このほか、実家を二世帯住宅に建て替えるための資金の入手と、引っ越しまで住み続ける拠点の確保のため、リースバックを利用したケースも紹介している。
注意を促しているのは、トラブルは起こりうることだ。
たとえば、強引な勧誘で契約してしまい、後で解約を申し出たら高額な違約金を請求されたケース。電話や来訪でしつこく勧誘されて契約してしまった人が解約を申し出ると、400万円の違約金を請求された。
支払賃料の合計額が数年で売却価格を超えることに後で気づいたケースでは、キャンセルを申し出たが、断られた。
このほか、市場の価格より著しく低い価格で売却してしまったケースも。事業者から提示された700万円で売却したものの、市場での取引価格は1億2000万円で、十分な説明を受けていなかった。
定期借家契約の更新を断られ、住め続けなくなったケースもあった。
リースバックの取引件数は年々拡大、これからも増加の可能性
国交省の調査では3年間で3・5倍に増加
リースバックの取引件数は拡大しつつある。近年広がり始めた比較的新しい取引形態のため、新しい大規模な統計数字は、まだあまりない。
2020年8月に株式会社セイビーが調査した「不動産リースバック利用者への総合調査/2020年版リサーチ調査」によると、調査対象のうち、リースバックを利用したことがある人は全体の3%で、前年の2%から1.5倍となった。
リースバックした物件は、2019年、2020年ともに戸建てが最も多く、次がマンションだった。
一方、国交省の調査によると、リースバックの取引件数は、買取・仲介あわせて、2016年が266件、2017年が389件、2018年が920件となった。
その後、新型コロナウイルス感染拡大があり、数字のペースは変化しているかもしれない。だが今後、高齢者が増えることもあり、リースバックの取引や扱う業者は増え、より一般的になっていくだろう。
冒頭述べたように、不動産投資家からみて、市場価格より安めに物件を購入し、貸すことができるリースバックは、有望な投資案件になる。
しかし、国交省がガイドブックの策定に乗り出したことからわかるように、トラブルも目立ち始めている。あいまいな契約で入居者をトラブルに巻き込んだり、訴えられて自身が窮地に陥ったりしないよう、しっかり知識を身につけて臨みたい。