管理会社より退去の連絡が入ると「家賃を下げる」か「同じ家賃」で再募集というのが、長引く「デフレ下での常識」であった。
賃貸住宅のメインターゲットである若年層が増え続け需要が上がるか、景気がよくなり賃金が上昇すれば、それに合わせて家賃が上がっても良さそうだが…いま日本を取り巻く環境は、決して楽観視できない。
特に、コロナ禍は賃貸市場にも大きく揺さぶりをかけている。
繁忙期に差し掛かり、ようやく今年は法人も動き出したと言った矢先に、オミクロン株による「まん防」となり、部屋探しをする来店者数は急激にストップがかかった。
■地域によって
大きく差が出た入居率
ある首都圏の中堅管理会社によれば、コロナ前に98台と苦戦を強いられているようだ。
その理由の一つに、ここ10年くらいの間に増加してきた外国人入居者の新規契約数が、大幅に減少していることがあるようだ。年間を通じて全体の2割程度の契約を外国人が占めていたが、コロナによってその需要が大幅に絶たれてしまったという。
さらに、特に首都圏においてはテレワークの浸透で会社に出社する必要がなくなった。その結果、狭くて高い都心部に住む必要もなくなり、快適で安い賃料の郊外都市へ移動する人が増えた。その結果、退去はあるが入居は決まらないという悪循環に陥り、空室が増えている。
一方、ある首都圏郊外では94へと大幅に上昇しているエリアがある。
コロナが大幅に人の流れを変え、これにより賃貸住宅の需給バランスが局地的に崩れているのだ。
■家賃が
10%以上も上がる
入居率が99%ともなれば、募集される物件数が市場から減ることになる。この時点で退去が出た場合、家賃設定をどうするのかがカギとなる。
先にも述べたとおり、長引く「デフレ下での常識」では、家賃は毎年下落か良くても現状維持である。しかしそれは「人口が減っていく」「物件が供給過剰である」という前提のもとで成り立っている。
局地的な需要の高まりは、家賃が右肩上がりになることもある。
実際に、今から5年ほど前、沖縄県の宮古島市ではホテルや自衛隊などの開発ラッシュで、賃貸住宅が大幅に不足していた。人材が不足しているため、県外から工事関係者を呼ぶために、建設会社は賃貸住宅を確保する必要があった。その結果、家賃はみるみる上昇をし続け、築30年の20㎡にも満たないワンルームが10万円という、東京都心部よりも高い家賃となっていったことがある。
実際にここ数年の話ではあるが、4年前に新築した当初よりも、部屋によっては10~15%以上値上げをして募集しても、すぐに成約に至るという埼玉エリアの事例もある。
確かに都心部で払っていた高額な賃料を考えれば、郊外の物件はかなり広くて割安感がある。郊外エリアで数千円程度賃料を上げたとしても、都心部からの流入者から見れば、それでもまだ割安感があるように見えるだろう。コロナの影響などで、直近数年の人口推移を見た時、流入数が増え、入居率が上がっていれば、家賃を上げられる可能性は十分に高いと言える。
■退去時には、
再査定をする
このように、特別な要因がある市場の下では、これまでと同じという常識が大きく崩れている可能性がある。そこで重要なことは、現在の市況をしっかりと認識し、常識をアップデートすることである。
入居率が高い状況下では「4年間住んだ入居者が退去したから、2000円下げて募集をしよう」というのは大きな間違いである。
需給バランスが大幅に変わっているエリアでは、常に市場家賃が変動している可能性がある。その場合、頻繁に家賃査定をしなければ、オーナーは機会損失を起こしてしまう。「本当は、もっと高く決められたのに」と言ってもあとの祭りだ。
資材高騰で新築物件は構造に関わらず建築コストが上がっている。賃料は変わらない…となると、利回りはどんどん下がっていることになる。
そうなると、新築物件を作る旨味がなくなるため、利回りを期待できる中古物件の流通が活発になる可能性がある。
人流を見極め、最適な賃料を設定し、機会損失を防ぐことができれば、仮に数年後に売却を…と考えた場合でも、キャピタルゲイン(売却益)に大きな違いが出てくるはずだ。
株式会社寧広