賃貸住宅2025年仕様へ向けて - 環境志向が強まるスペックの動向「不動産投資家の建築知識016」New

最近見た集合住宅新築事例では省エネルギー性能を強化し、また内装・設備においてもこれまでのローエンド、短期サイクルでの更新をベースにするものから、耐久性、長期使用に耐えるものを選択し交換サイクルを長めにする仕様への移行が起きている。

それはすなわち建築を長くつかい、そこから長く収入を受けるという、事業的な持続性の考え方なのだ。

2025年の建築と環境
2025年の建築と環境

2022年初頭のワンルーム新築事例から

ちょうど先日、関東地方で見た新築ワンルームの仕様がとても興味深いものであったので、今回はそこから紹介したい。

メジャーターミナル駅の隣駅から、徒歩7分というコストと利便のすり合わせられた条件、決して「xx映え」などのない「普通の」周囲住宅地の街並みからも突出しない外観は、既成のパネルながら「センス悪く感じさせない=マイナスを感じさせない」使い方だ。

20-30台女性をターゲットにするワンルームマンションという企画方針から、「目に見える」内装には一歩踏み込んだセンスを提示している。コーディネートを定評のあるインテリアプランナーに任せることで、やはりこのエリアの低めの平均像から一味違うメリハリのあるイメージを内装で提案している。

一方でメジャー管理会社のオペレーションの負担となるような「特徴のための特徴」「オーナーのこだわり」となるものを慎重に排除することで、長期運用管理の不要な問題のリスクを排除している。

これはハードとサービスを併せた「ワンルームマンション」という商品フォーマットの中で勝負するという明快なスタンスだ。
ここでの特筆すべき環境性能はBEI(省エネルギー性能指標)=0.8を切る性能(BELS基準で五つ星相当)を、壁、屋根、基礎床の断熱、サッシュの仕様、気密施工など一つ一つの建築要素の地道な積み重ねで実現している。

BELS表示の五つ星
BELS表示の五つ星

見えない特徴としての環境性能の意味

性能という「目に見えない」特徴について考えると、長期の運用という点からは、
1.2025年以降の住居供給のスタンダードを先取りすることでそれ以降の未来まで運用できる性能を先取りする(2025以前/以降の建築の市場価値ギャップを超えるための性能でもある)

2.快適性、低ランニングコストなどの実質による賃貸者の長期間居住(離れ難い快適な住まいであることがオーナーにとってもメリット)

3.躯体保護の観点からの劣化減少、耐久性の向上(運用途中の保守コストの低減。人にやさしい建物は建物自身にも優しく強い。)
など、明快な対効果の要点を認識して採用が行われているところも、投資対象の設計として明快だった。

「目に見えない」断熱性能は、ではどういう点にメリットを感じることができるのだろうか。訪れた日が2月だったにもかかわらず寒さを感じなかった以上に、室内の温度のばらつきが少なく感じられた。

一般に断熱の効果として環境計測しやすいのは室内気温の時間的安定だが、それ以上に実際には室内の位置による輻射熱を含めた温度体感のばらつきの少なさがある。

それは結果として生活行動のしやすさ、快適さにつながると考えられる。人間だれしも、寒いコーナーには近づかなくなるものであり、暖かいエリアに長居するものだ。これは、断熱性の悪い居室では室内の平均は一緒としても熱源とそこから離れた位置とでの温度差は確実に生じてしまうために適温と感じられるエリアは部屋の一部分に限定されるということにほかならない。

断熱性が高いことによって、室温感が全体で一様に近くなり、結果として部屋全体を行動範囲とすることに抵抗がなくなる。その価値が今後必ず居住者行動に変化を与え、マーケットスケールの現象として出てくるはずだ。

断熱材と樹脂サッシュ
断熱材と樹脂サッシュ

見える特徴としての内装のコーディネートデザインと
設備のスペックが導く長期の使用とリターンの期待

各階ごとにグループされたデザインテイスト(シャビーホワイト、ナチュラルネイビー、ノルディックブルーグレイなど)は、少ない要素の中でもルールをきっちりと絞り込むことで、ワンルームマンションにありがちな無個性でぼやけた印象から免れるために非常に有効であり、内見者に明確なメッセージを与えることに成功している。

特に通常別メーカーであるために統一感を作りにくい玄関扉や外部サッシュと壁面、内部扉へのつながり、また手が触れる場所である内部扉のハンドルの触感、そして水回りの壁面デザインなどの細やかな調整、チューニングなど、全体コーディネートによってコストをかけずに有効なアピールとなっていると感じた。

通常のファミリータイプクラスを採用したキッチンのランクアップも女性ターゲット層を考えると、メリットが分かりやすく大きく評価の上がるポイントだと思われた。その他個々の設備について決して奢侈に走ることなく、しかしながら間に合わせではない、「人が住む」ということをないがしろにしない、というメッセージが感じられるものをセレクトしていた。

これらはすべて、「入居者が複数期で契約を更新する」長期のユーザーである、そういうユーザーが入居するというストーリーの上に組み立てられたスペックである。

コロナ以降の動向として、必ずしも中心市街地ではないエリア選択が存在すること、すなわち通勤距離・時間の絶対性が相対化していることから、かえって賃貸契約が長くなっていく傾向が指摘されているが、それを踏まえて作られた一つのケースとしてこれを整理すると、

・在宅時の快適さを実感として1ランク上げることで、退去しない、長期の居住を目指す
そのために
・断熱性能は2025年の基準に上げることで、つらい季節、時期をつくらない
・設備のランクを長期使用に耐えるスタンダードクラスへ上げることも長期のランニングコストで回収できる。同時に、入居者の満足度につなげる
・デザインテイストはデザイナーに発注しコストもかけて全体コーディネートの筋を通すことが、トータルバランスでコスト削減につながり、入居者の決断へ結びつく。結果として空室をつくらない。

健美家016_04_ワンルーム

以上の「持続可能な」視点で作られたものは建築としても長く使い続けることができ、ランニングコストも年度単位では低く抑えられる。それはすなわち、投資に対してのリターンを積み上げていく期間が延びるということにほかならない。

SDGs的な思想で企画された建築が事業主体にとってはリターンの持続性として返ってくるということが、2025年の賃貸事業構想のベースとなるのではないだろうか。

                                                 株式会社寧広