課税強化は不動産業界にも影響? 岸田政権「分配政策」の今後

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岸田文雄政権が発足してから約4カ月が経過した。岸田首相は「新しい資本主義」を看板政策として掲げ、「成長と分配の好循環」という、経済成長を維持しながら所得の分配を実現する方針を示している。

これまでの「アベノミクス」などの政策は大企業や富裕層を潤した一方、貧富の差が拡大してしまったという見方もあった。そうした点を踏まえて岸田首相は、株式投資などの取引における金融所得への課税強化も表明していた。

しかし、2021年10月以降、岸田政権が発足したことなどから株価は大きく下落。岸田首相の政策を市場が嫌気したとの報道もなされた。その後岸田首相は、株式市場の混乱を避けるべく、金融所得への課税強化に関する具体的な発言を控えている。

だが、格差の解消を強化する政策を推し進める場合、再び金融所得課税の強化が俎上に載る可能性もある。仮にそうなった場合、金融市場はどのように反応するのか。またそうした動きは、不動産への課税強化につながる可能性もあるのだろうか。

「新しい資本主義」とは

そもそも、岸田首相が掲げる「新しい資本主義」とはなにか。

岸田首相が「新しい資本主義」を掲げている背景には、これまでの「新自由主義」的な経済政策がある。新自由主義は、政府が市場に干渉しすぎず自由競争を重視する考え方のこと。国家による福祉・公共サービスの縮小や、鉄道・電話などの国営事業の民営化などによって、自由な競争を促し経済を成長させようというものだ。

「新自由主義」的な政策は、一例として小泉政権以降の郵政民営化や、安倍晋三政権以降の法人税の減税などが挙げられる。

これらの政策が、市場に直接影響を与えたのかは定かではないが、小泉政権が発足した、2001年の日経平均株価の最高値は約1万4000円、2021年では約2万8000円にまで上昇。株式市場をはじめとする金融市場は成長した。

一方、市場に依存しすぎたせいで分配が滞り、中間層の所得が減ったり格差や貧困が拡大したりしていることを問題視する意見も多かった。

そこで、岸田首相は高所得者層への課税を強化するなどの政策を行い、低所得者層に「分配」をすることで、格差の拡大を見直そうとしている。

広がる金融所得による格差

実際のところ、日本における格差はどれほど広がってるのだろうか。所得などの不平等さを表す「ジニ係数」を確認していく。

ジニ係数は0から1の間の値を示す。1に近づくほど不均等で、格差が大きいと判断できる。ジニ係数が0.5以上の場合は特段の事情がない限り、格差を是正する必要があるとされている。

総務省が5年に1度実施する「全国家計構造調査(旧全国消費実態調査)」から、いわば手取り額に相当する「可処分所得」のジニ係数を見ると、1999年は0.273で、20年後の2019年には0.274とほぼ同水準になっている。つまりこの20年間、可処分所得における格差は拡大していないということになる。

では、日本における格差拡大の「正体」は何なのか。これこそが問題視されている金融資産残高なのだ。

全国家計構造調査で金融資産残高(貯蓄残高)のジニ係数を見ると、1994年に0.538だった金融資産による格差は拡大を続け、2019年には0.640に上昇している。

富裕層は金融所得で儲けている

なぜ可処分所得の格差は拡大していないのにも関わらず、金融資産残高の差は拡大し続けているのだろうか。これは、所得全体に占める労働所得と金融所得の割合を見るとよく分かる。

東京都主税局の東京都税制調査会の資料によると、所得が500万円以下の場合、金融所得は所得全体の1%未満だ。これに対して、所得が1億円を超えると、金融所得の割合は17%以上となり、50億円を超えると所得の90%以上は金融所得となる。つまり、富裕層は労働所得ではなく、金融所得で所得の大半を得ている。

さらに可処分所得と金融所得には、税金面においても格差が拡大する問題があるという。

日本において、給与などの「労働所得」は所得金額に応じて10~55%の累進税率が適用される総合課税となっている。一方、利子所得、配当所得、株式等譲渡所得は「金融所得」として一律20%の分離課税となっている(現在は、復興特別所得税が上乗せされているため20.315%)。

そして、労働所得と金融所得を合わせた所得全体への税負担率は、所得1億円までは27.9%だが、1億円を超えると23.2%に低下する。これが「1億円の壁」と呼ばれているものだ。1億円を境に金融所得にかかる20%の分離課税の方が多くなり、所得全体にかかる税負担率が軽くなるためだ(ただしこれは、申告納税者約640万人のデータを基にしており、給与所得者約6000万人のデータは含まれていない)。

こうしたことから、格差拡大の抑制のために金融所得課税の強化という手段が浮上したという経緯がある。

難航する「金融所得」への課税強化

ただ、単純に金融所得を引き上げれば、別の問題も生じるだろう。

分離課税率を20%から引き上げようとすれば、高額所得者の税負担率を引き上げることはできても、それ以外の人の金融所得課税まで引き上げることになる。

そうなれば、金融所得を生活費に充てている高齢者や、これから資産形成を行っていく若年層に影響を与えてしまう。

そこで、金融所得を所得額に応じた累進課税とすることも検討されている。ちなみに米国では、金融所得の分離課税を0%、15%、20%の3段階で課税している。

ただ、累進課税制度を導入する場合、制度設計をどのようにするのかなど検討課題は多い。金融所得を可処分所得などの総合課税に含めて、累進課税を適用する方法も挙がっているが、制度設計は非常に難しい。

例えば、金融所得を労働所得と同様の税率にすれば、低所得者の金融所得に対する税率は低下する。しかし、高所得者の金融所得に対する税負担率は大きく引き上げられ、所得全体に対する税負担率は非常に重くなる。

そうなれば、高所得者の株式市場離れを引き起こし、市場の衰退につながる可能性を秘めている。また、若年層が資産運用を通じて老後資金を蓄える機会を妨げることにもつながってしまう。

岸田首相が一度は金融所得課税の強化を打ち出しながら、それを先送りして継続検討にしている理由の1つは、この点にある。

課税強化はいずれ不動産業界にも

ただ、岸田首相が「分配」政策をより進めるなら、金融所得課税の強化はいずれ行われることになるだろう。夏の参院選が終われば、金融所得課税を見直すのではないかとの声もある。

その場合、不動産についても影響が出る可能性もある。

株式や不動産などの資産は、親から子へ引き継がれることから「格差の固定化」につながっているとの指摘もある。このため、金融所得課税と同様に、相続税や贈与税などの見直しなど、不動産所得に対する課税も強化される可能性もあると言える。

こうした点では、金融所得の課税強化は、不動産投資を行ううえでは他人事ではなく、やがては自らに降りかかる「火の粉」となる可能性を秘めている。

                                                株式会社寧広