経営危機の「中国恒大」、破綻の可能性と影響を探る

中国の不動産開発大手である中国恒大集団(チャイナ・エバーグランデ・グループ、以下、恒大集団)の信用不安が話題となり、借入の利払いが止まった、同社が販売した資産運用商品(理財商品)が期日までに全額返済されず、投資家が本社に押しかけた、などの報道がなされる事態に発展しています。

実際に恒大集団が破綻したら、投資家のみならず、同社の開発物件を購入した個人や建築会社にも大きな影響が出るとされています。そして、恒大集団破綻の影響は中国国内に留まらず、世界の金融市場に混乱を巻き起こすのではないかと懸念されているのです。

そこで今回は、恒大集団の信用不安について、同社の決算を確認しながら検証してみたいと思います。なお、資金繰りの状況を正確に把握するため、最も直近の2021年1~6月(半期)の恒大集団の決算を確認していきます。

2021年1~6月決算のポイント

では早速、恒大集団の決算を見ていきましょう。対象決算期は、前述の通り2021年中間期(1~6月)です。1年分ではなく半年分であることに注意してください。使用している数字は、単位未満を切り捨てにしています。人民元(RMB)のレートは1元=17円で計算しています。またblnは10億(billion)の略です。

恒大集団 2021年1~6月決算
売上高…RMB222bln(3兆7857億円)、前年同期比▲16.5%
売上総利益…RMB28bln(4901億円)、同▲56.8%
売上総利益率…12.9%(前年同期は25.0%)
営業利益…RMB25bln(4367億円)、同▲45.8%
最終利益…RMB10bln(1784億円)、同▲28.9%

まず売上げですが、半年で3兆7千億円以上の売上げがあります。年間の売上高は、単純にこれを2倍にして7兆円以上の企業だということが分かります。ちなみに2020年の売上高は8兆円を超えていました。

ちなみに日本の大手不動産会社といえば、三井不動産と三菱地所が有名でしょう。両社の2021年3月期(1年間)の売上高は、三井不動産が2兆円、三菱地所が1兆2千億円です。売上高の規模だけでいえば、「三井不動産と三菱地所が合併し、さらに2倍」になっても恒大集団の年間売上高に追いつきません。恒大集団はそれほどの巨大企業だということです。

ただし、2021年1~6月では、恒大集団の売上高は前年同期比-16.5%と大きく低下し、その結果、売上総利益(粗利益)は半減しています。この点は1つのポイントとなります。

なお恒大集団は、単なる不動産デベロッパーではなく、自動車部門もある多角的な企業と言われます。ただし売上高の割合を見ると、不動産開発が3兆5879億円とほとんどを占めていることが分かります。

恒大集団 2021年1~6月決算(セグメント別売上高)
不動産開発…RMB211bln(3兆5870億円)
不動産投資…RMB0.4bln(68億円)
プロパティマネジメント…RMB5bln(850億円)
その他ビジネス…RMB5bln(850億円)

このセグメント別の売上高を見ると分かるように、恒大集団は不動産を購入し、それを開発するビジネスが主です。そして、売上規模から考えて、他のセグメントで主業の不動産開発事業を補うことは無理です。

バランスシートにおけるポイント

次に、2021年6月末時点でのバランスシート(貸借対照表)についても確認していきましょう。恒大集団の総資産は、RMB2377bln(40兆4187億円)あります。主な資産は以下の通りです。

総資産
開発中資産…RMB1278bln(21兆7424億円)
完成済販売用資産…RMB144bln(2兆4567億円)
売掛金及びその他の受取債権(流動資産)…RMB175bln(2兆9910億円)
前払金…RMB164bln(2兆7996億円)
拘束現金…RMB74bln(1兆2725億円)
現預金…RMB86bln(1兆4751億円)
投資不動産…RMB155bln(2兆6419億円)
持分法で会計処理されている投資…RMB115bln(1兆9675億円)

この資産項目を見れば分かるように、恒大集団の資産の約半分は開発中資産(不動産)です。この開発中資産を完成させ、そして販売しキャッシュ化していくことこそが恒大集団にとって重要なことがよく分かると思います。ちなみに先に例に挙げた三井不動産の総資産は、直近決算で7兆8千億円、三菱地所の総資産は6兆3千億円です。両社合算で14兆1千億円となっています。

次に負債サイドですが、主な項目は以下の通りです。負債合計はRMB1966bln(33兆4310億円)となっています。

負債
短期借入…RMB240bln(4兆808億円)
長期借入…RMB331bln(5兆6393億円)
買掛金及びその他の支払債務…RMB951bln(16兆1692億円)
契約負債…RMB215bln(3兆6684億円)
その他、当期税金負債など

報道で恒大集団の負債が33兆円あるとされるのは、この負債の項目全ての合計値を単に伝えているだけです。

資金繰りはどうなっている?

恒大集団の資産と負債について見てきました。同社の資産・負債の数値からは何が言えるでしょうか。

まず、1年以内(短期)で返済期限が到来する借入は約4兆円ある一方で、拘束されておらず自由に使える現預金は約1兆5千億円しかないということです。すなわち、借入にかかる債権者(銀行等)から一斉に返済を求められた場合には、恒大集団は資金繰り破綻を起こすことになります。そのため恒大集団は、開発した不動産を売らないといけません。

完成在庫は約2兆5千億円あります。これを売り切れば、現金と併せて短期借入については何とか返済できるかもしれません。ただ、不動産開発を行うエバーグランデは銀行への返済だけを行うと本業がストップしてしまいます。

同社の流動負債に区分される買掛金(及びその他の支払債務)は、約16兆2千億円あります。まさに銀行からの借入金を大幅に上回る水準です。
この買掛金は、ゼネコンや建物設備事業者等でしょう。この支払いができなくなると、工事が止まります。工事が止まると、開発中の物件が完成せず、資金回収が難しくなります。

買掛金のうち1年以内に支払いが必要なのはRMB582bln(9兆9013億円)と注記されています。そのため、買掛金等では最低でも約10兆円をしっかりと支払っていかないと恒大集団は追い込まれることになります。

ここまで信用不安が取沙汰されている中で、新規に銀行等の金融機関から恒大集団が資金を借り入れることは難しいでしょう。そして、不動産を開発しようとしても、建設会社が工事を請けてくれなければ、開発もできません。お金をしっかりと払ってくれるか心配な不動産開発業者の工事を請けるのは先に現金で支払ってもらった時ぐらいでしょう。

一度信用不安が明るみに出ると、資金繰りに行き詰まるのは、このように現金が入ってこない(借り入れできない)一方で、先に現金が出ていく傾向にあるからです。

そうなると、恒大集団にできることは開発中の不動産を完成前に売却することぐらいになります。この場合は、普通に考えると安く買い叩かれることになるでしょう。このような動きが次々と起こり、エバーグランデは追い込まれている、もしくは追い込まれていくのです。

経営危機の理由とその影響

恒大集団の経営危機は、中国政府の統制強化の中で生じた側面が強いように思われます。中国政府は、昨年に不動産開発業者を対象に新たな規制を導入しており、規制によって新たな借入が出来なくなったことが今回の経営危機に通じています。

この規制は、「3つのレッドライン」と呼ばれています。2020年8月に導入されたもので、簡単に言えば、負債の比率を一定以下に保つことが要求され、それに抵触すると新たな有利子負債を増やすことができない、とするものです。この規制に恒大集団は抵触していました。

中国政府としては、3つのレッドラインによって不動産開発業者の活発過ぎる活動と住宅価格の上昇を抑制する狙いがあったものとされています。報道によると、恒大集団が中国全土で手掛ける開発案件の半分以上が凍結されているとされています。

恒大集団が破綻すると、どのような影響があるのでしょうか。

もちろん借入の債権者である銀行・ノンバンクが損失を被る可能性はあります。また、社債の債権者である機関投資家等も影響を受けます。

ただし、この金融機関や機関投資家が損失を受けたとしても、そのダメージは限定的と想定されます。これも報道ベースではありますが、債権者は中国企業がほとんどであり、リーマンショック時のように世界中にリスクがばらまかれているとまでは言えないからです。

そして、中国の商業銀行の貸倒引当金は91兆円強(2021年6月時点)、2020年の純利益は3兆円です。エバーグランデの借入(短期+長期)は10兆円弱ですので、中国の商業銀行には十分に吸収可能であり、エバーグランデのみの損失では金融危機が起きるレベルにはないものと思われます。

ただし、中国国内という観点では、物件購入者(代金支払済であるにもかかわらず未入居の個人)、及び建設会社・住設機器のサプライヤー等へは甚大な影響が予想されます。買掛金及びその他の支払債務は前述の通り16兆円強あります。エバーグランデからの資金の回収ができず、連鎖破綻が発生する可能性はあるでしょう。

政府がコントロール、軟着陸狙うか

このままいけば、恒大集団の資金繰り破綻は避けられない可能性が高いと思われます。

しかし一方で、恒大集団はあくまで中国の企業です。たとえ破綻したとしても、借入先の大半が中国の国有銀行とされていることから、金融面での混乱を避けながら、中国政府が主導して債務リストラを行っていくことは可能ではないでしょうか。

また、恒大集団の保有物件を一斉に投げ売りする形での換金は、土地価格の下落を招きますので、これも政府が許すことはないと考えられます。いずれにしろ、中国は政府のコントロールが効く市場です。恒大集団は、秩序だった形で処理されていくのではないかと思われ、恒大集団の問題が金融市場や金融機関に対して危機をもたらすものではないと筆者は考えています。

問題になるとすれば、今回の問題を受けて、中国国内の投資マインドが下がることです。誰もが怖くなって不動産を購入しなくなれば、大きな影響が出ます。その意味では、心理的な影響がどの程度まで広がるかが、恒大集団問題のキーポイントとなるのではないでしょうか。

                                                 株式会社寧広