空室率40%エリアで4年間満室を続ける「差別化戦略」とは

空室率が40%を超えるエリアで、ごく普通の築古アパートを満室経営するオーナーがいる。

物件は駅から徒歩50分と遠く、駐車場は全8戸に対して4台しかない。間取りはどこにでもある1DKだ。決して競争力が高いとは言えない物件だが、「高齢者、障害のある人を積極的に受け入れる」という明確なコンセプトを掲げ、さまざまな工夫を積み重ねることで、入居率100%を維持している。

賃貸需要が低いエリアにありながら、なぜ満室経営ができているのか。この物件のオーナーで、投資歴7年のサラリーマン大家、鈴木かずやさんに話を聞いた。

4年間満室経営、秘訣は

物件の名前は「あんしん荘」。築37年の軽量鉄骨アパートだ。

鈴木さんがこの物件を購入したのは2016年のこと。価格は1000万円で、購入後に250万円をかけて外壁や屋根などをリフォームした。年間家賃収入は約300万円、表面利回りは24%だ。

あんしん荘の特徴は、単身の高齢者を積極的に受け入れている点。現在は全8戸のうち5戸に、65歳以上の高齢者が1人暮らしをしている。残りの3部屋には現在、鈴木さんが購入する前からの入居者が住んでいるが、現在の入居者が退去したあとは、この部屋でも高齢者などの受け入れを進めていきたいと鈴木さんは考えている。

高齢者や障害のある人積極的に受け入れる「あんしん荘」。オーナーは鈴木かずやさん。投資歴7年のサラリーマン大家で、主に茨城県南部で一棟アパート4棟、戸建て1戸を運営している

高齢者や障害のある人が安心して住める環境を提供するため、鈴木さんはハードとソフトの両面からさまざまな工夫を重ねている。

まずハードの面では、スロープや手すり、段差を解消するためのステップなどの補助具を設置。しかも各部屋に一律で同じ補助具を設置するのではなく、入居審査の際に入居希望者からヒアリングをし、個別の要望に合わせて対応することを大切にしている。

玄関脇に設置した手すり付きのスロープ。知り合いから無料で譲り受けたものを取り付けた

手が震えて鍵を開けるのが困難な入居者や、鍵をなくしがちな入居者の玄関には、簡単な操作で開閉できる電子錠を設置している。

タッチパネル式の電子錠。4万円程度で購入できる

また、車いすを使用している入居者の部屋には、床の段差を解消するためにステップを設置したり、押し入れを使用しやすくするため襖を撤去したりと、入居者の要望に合わせ内装を変えている。

車椅子の入居者の部屋では、スロープを置いて段差に対応。「移動しやすい」と好評だそうだ

こうした補助具は、知り合いから譲り受けたものや、安価に購入したものがほとんどで、バリアフリーなどの大がかりなリフォームは行っていない。

「そんなに特別なことはしていないんです。大切なのは入居者さんとコミュニケーションを取り、要望をしっかりと聞いて、そのうえで少しだけ手を加えること。普通のアパートに、ちょっとしたおせっかいを加える、そんな感じですね」と鈴木さんは話す。

ケアマネージャーが「入居付け」に一役

こうしたハード面のほか、ソフト面でのサポートも備わっているのがあんしん荘の特徴だ。

入居者によっては身寄りがなく、悩みや身体の状態を相談できる人がいないことがある。そのままにしておけば、誰にも看取られることもなく亡くなってしまう恐れもある。そういった入居者のために、ケアマネージャーなど介護事業者の紹介を行っている。

「あんしん荘」の高齢者をサポートするケアマネジャーのAさん

大家とケアマネージャーが連携して賃貸経営を行うというケースはあまり多くないが、こうした連携は実は介護事業者側にもメリットがあるのだという。あんしん荘に住む高齢者をサポートする、ケアマネジャーのAさんは次のように話す。

「高齢者を在宅でケアする場合、移動のしやすさなど部屋の使い勝手は重要です。手すりなどの補助具の設置が必要なケースもありますが、そうした要望をすぐに受け入れてもらえることはまれです。その点、鈴木さんのように、大家さんと私たちが直接コミュニケーションを取ることができれば、要望も叶いやすくなります」

あんしん荘を自主管理している鈴木さんは、入居者の見回りも定期的に行っている。入居者の状態をケアマネージャーと共有することで孤独死などのリスクを抑え、補助具の設置など入居者の要望にも柔軟に対応できるのだという。

定期的に入居者を訪問し、現在の状況を伺っている

鈴木さんと協力関係にある介護事業者は、今では引っ越し先を探している高齢者に、鈴木さんの物件を紹介してくれることもあるそうだ。「紹介料をお支払いすることはないのですが、高齢者をサポートする者同士で、良いパートナーシップを築けている」と鈴木さんは言う。

「リーダー入居者」に支えられて

入居者や介護事業者と積極的にやり取りをする鈴木さんは、現在もサラリーマンを続けながら賃貸経営を行っている。ほとんどの物件を自主管理しているが、普段の仕事と両立できているのだろうか。

「実は、物件ごとに『リーダー』的な入居者がいるんです」と鈴木さん。面倒見の良い入居者がおり、率先して物件周辺の清掃を行い、他の入居者の様子を確認してくれる。彼らのおかげで、管理の手間が省けているそうだ。

「あんしん荘」のリーダー入居者。最近、建物内にゴミを不法投棄した人に注意したと鈴木さんに報告していた

「入居者と介護事業者、2つのステイクホルダー(利害関係者)と密なコミュニケーションが、私を支えています」と鈴木さん。入居者には住みやすい環境を提供し、介護事業者との密なコミュニケーションで、互いにサポートし合う。この関係が、鈴木さんの賃貸経営の命綱になっているという。

「高齢者向け物件」を始めたきっかけ

鈴木さんの投資家としての1棟目は、茨城県南部に300万円で購入した中古の戸建て物件だった。多少のリフォームを行った後、すぐに入居者が決まった。さらに規模を拡大したいと考えた鈴木さんは、2棟目にアパートの購入を検討する。

鈴木さんが初めて購入した中古戸建て。家賃は4.4万円で現在も稼働中

しかし、鈴木さんの購入エリアである茨城県南部では、空室率が年々上昇していた。普通の物件を買って普通に募集をしただけでは、空室を埋めることはできない―鈴木さんはそう感じていた。

どのような物件を購入するべきか悩んでいたある時、ふと1棟目の戸建ての入居者から聞いた話を思い出した。その入居者は、高齢の夫婦と、精神面に不安を抱える子どもの3人暮らし。話によると、介護施設や福祉施設に入らずとも、一般的な住宅に住むことができる高齢者や障害のある人は多いものの、受け入れてくれる大家が少なく、住居を探すのに苦労する人が多いとのことだった。

こうして、補助具や在宅介護サービスが整った物件を作り、積極的に受け入れようと決めた鈴木さん。その後は、ケアマネージャーなどにヒアリングを重ね、彼らがどのような住まいを望んでいるのかを調べていった。

これらの情報が「高齢者や障害のある人など、他の大家から入居を断られる人に物件を貸す」というコンセプトとなり、あんしん荘の誕生につながった。

当初、資産拡大を急ごうとアパートを探し回っていた鈴木さんだが、「あの時、明確なコンセプトもないままで物件を買っていたら、今頃空室に悩んでいたかも知れない」と振り返る。

住む場所に困っている人を減らしたい

単身の高齢者など、住む場所に困っている人に物件を貸し出す大家が少しでも増えてほしいと鈴木さんは望んでいる。「あんしん荘のようにいきなり一棟物件ではハードルが高いかもしれませんが、区分マンションやアパートの1室からでも始められるんです」と鈴木さん。

コンセプトを明確にし、それを徹底すれば満室稼働させることができると鈴木さんは話す

こうした物件で稼働率を高めるタメには、「とにかくコンセプトが大切だ」と鈴木さんは話す。「誰に貸し出したいのか、その人は何を必要としているのか。コンセプトに沿った運営をとことん考えることが満室にするための秘訣だと思います」

今後も高齢者や障害を持つ人に向けて、「100室を運営したい」と目標を掲げる。鈴木さんは社会貢献性と事業性の両輪で、不動産投資業界を生き抜いていく。

                                                 株式会社寧広