現役銀行員が教える、「アパートローン審査」のチェックポイント

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アパートローンとは何なのか、どのように借りるべきなのかなど、アパートローンの基礎を振り返る本シリーズ。前回の記事では、物件の売買価格やローンの種類などに焦点を当て、銀行が行う最初の確認事項などを確認しました。

今回は、借入人個人について、銀行がどのような点をチェックしているのかを解説していきます。具体的なチェックポイントは「1.財産と収入」「2.アパート経営のリスク」「3.相続」の3つです。それぞれ順に紹介していきましょう。

1.「財産と収入」が重視される理由

アパートローンを借り入れるにあたり、まず銀行が見るのは借入人の「財産と収入」です。具体的な項目としては以下の通りです。

・借入人が保有する財産の一覧(不動産、株式、保険など)
・給与収入や役員報酬、事業収入など
・保有不動産からの賃貸収入、保有株式からの配当収入、保有有価証券(債券等)からの利息収入など
・既存の借入金の全額と銀行への担保差し入れ状況

確認に使われる資料は、主に確定申告書類、銀行取引状況(通帳等)、証券会社取引状況などです。簡単に言えば、銀行は借入人のおカネの流れ、資産のすべてを知りたがるということです。

ところで、なぜ銀行は借入人の財産と収入を重視するのでしょうか。その理由は、一般的なアパートローンが「リコースローン」だからです。

リコースローンとは、借りたお金が返せなくなったとき、担保物件や対象事業のキャッシュフローだけではなく、給与収入など他の財源から返済しなければならないタイプのローンのこと。「リコース」とは日本語で「遡及(過去にまでさかのぼる)」という意味があります。簡単に言えば、「不動産以外の別の事業にもさかのぼって返済をする必要がある」のがリコースローンということになります。

一方、特定の事業や資産から生じるキャッシュフローのみを返済原資とするタイプのローンは、頭に否定の「ノン」を付けた「ノンリコースローン」と呼ばれます。

ノンリコースローンとリコースローンの比較

ノンリコースローンは、その名の通り、借入人の他の収入や資産に遡及できない、すなわち返済を求められないローンということになります。最終的には、担保を処分すれば返済責任を免れることができます。イメージとしては、銀行に特定の事業(例えばアパートそのもの)を渡してしまえば、それで返済は終了、ということです。

アパートローンを借りる立場から見ると、ノンリコースローンは魅力的に映るのではないでしょうか。アパート経営が上手くいかなかったとしても物件さえ手放せば、最終的にオーナーは責任を免れることができるからです。

しかし、個人向けのアパートローンに関しては、ノンリコースローンはほとんど存在しません。住宅ローンもアパートローンもカードローンもすべてリコースローン、すなわち個人に「保有する資産を売却してでも返済せよ」と迫るローン形式となっています。

ノンリコースローンが普及していれば、かぼちゃの馬車事件のようなことは起きなかったでしょう。シェアハウスのオーナーは、あそこまで追いつめられることはなかったはずです(そして、スルガ銀行はもっと慎重に貸出を行っていたでしょう)。

ただし、ノンリコースローンにも当然ながらデメリットがあります。ノンリコースローンは、特定の事業からの収支、そしてその事業の売却代金だけが返済原資となりますので、銀行の審査は厳しくなり、金利も高くなります。つまり、簡単には借り入れができないのです。

一方で、リコースローンの場合は、借入人の他の収入・資産も勘案するので、銀行の審査はノンリコースローンよりは「緩く」なり、金利も低くなることが一般的です。

そうした中で、ほとんど日本唯一のノンリコース型アパートローンではないかと思われるのが三井住友銀行の「直担アパートローン(責任財産限定特約型)」です。資料の最後に「返済の原資を、融資対象物件から得る収益に限定します」「担保設定した物件の範囲を超えて弁済を請求することはありません」と書かれています。とはいえ、こちらの商品も大々的に取り扱っているイメージはありません。

2.「アパート経営のリスク」を理解しているか?

他に銀行が借入人に確認するポイントとして、アパート経営のリスク理解度があります。これはかぼちゃの馬車事件以降、特に重要視されている項目でしょう。

アパート経営のリスクを借入人がどの程度理解しているか、特にサブリース案件の場合には、そのサブリースについて本当に理解しているかを銀行はチェックします。簡単に言えば、「貸した銀行が悪い」と後から言われないように、銀行が借入人の理解度をチェックするのです。

まずサブリースにおける確認ポイントは以下の通りです

・サブリース会社からの賃料は期間中(例えば30年間)必ず保証されているわけではなく、2年更新などになっている場合が多いこと

・賃料相場の下落や空室率の上昇により、サブリース会社から賃料の減額請求が行われる可能性があること

・入居状況が悪化すれば賃料引き下げとなる可能性が高いことから、借入人自身も入居率の実態を把握しておくべきであること

・サブリース会社が破綻した場合、入居者と新たな賃貸借契約を締結するまでは、収入が途絶える場合があること

・サブリース会社が空室を埋めるために、問題のある賃借人を入居させる可能性もあること(サブリース会社が破綻した際に問題となる)

・サブリース(マスターリース契約)には借地借家法が適用されるため、簡単には解約できないこと

銀行は借入人が上記のような点を理解しているかを、チェックしていきます。借入人からすると余計なお世話と言いたくもなるでしょうが、銀行からすれば「貸した銀行が悪い」と言われることを避けたいという心理が働きます。現在、多くの銀行がこの説明と確認についての記録を残しているものと思います。

これ以外に、「金利上昇リスクを認識しているか」「事業収支の見込みについて借入人が適切に理解しているか」などを銀行は確認することになります。本来は、事業収支の見込みこそが最も大事なはずですが、それ以外についても銀行はチェックしているということです。

3.見落としがちな「相続」に関する確認事項

もう1つ、意外と見落としがちな確認事項として、「相続」に関するものがあります。

アパートローンは相続対策にも活用されます。アパートを建てて、相続税評価額を圧縮することが目的です。したがって銀行は、将来の相続を見据え、借入人の子など「相続人」の状況もチェックするのです。

相続人に対象のアパートを経営する意思がない場合、また相続人の誰が対象のアパートを経営していくのかが決まっていない場合(いわゆる後継者不在)は、アパートローンがきちんと返済されるか、銀行としては見通しが立てづらくなります。

究極的には相続放棄や、負債の分割の可能性などさまざまなリスクが想定されますので、相続人が誰なのか、相続人がどのような状況にあるのかは、銀行としては重要な確認ポイントです。

相続関連における銀行の確認ポイントは、相続人間の争いがないか、相続放棄や限定相続となる可能性がないか、銀行窓口となる相続人が不在とならないか、資産分散によって借り入れを承継する相続人(次の借入人)の返済能力に懸念がないかという点になります。

「ノンリコースのアパートローン」は普及するか

脱線してしまいますが、実は筆者は、今後日本においてノンリコース型のアパートローンが増えていくのではないかと考えています。

詳細は筆者の過去の記事をお読みいただきたいのですが、スルガ銀行がかぼちゃの馬車事件におけるシェアハウスオーナーとの間で合意した解決案は、スルガ銀行に一定の「貸し手責任」を認めるものでした。

スルガ銀行のプレスリリースを見る限りは「事業計画の現実性の判断」「特有のリスクがある投資物件に対する十分なリスク分析」「お客様の高値掴み防止」を怠ったことがスルガ銀行の貸し手責任の理由であったようにも理解できます。

結果としてスルガ銀行は損害賠償金を支払い、そして対象不動産を代物弁済することで借金を帳消しにする仕組みを構築し、シェアハウスオーナーを破綻から回避させました。もしこのような事例が積み重なり、法的にもこのレベルで貸し手責任が認められるようになると、何が起きるでしょうか。

スルガ銀行は「かぼちゃの馬車」オーナーに対し、物件を手放すことと引き換えに債務を解消する「代物弁済」を行った

銀行は、事業計画や不動産の調査を今まで以上に行わなければなりません。今のアパートローンはリコース型なので、不動産投資(アパート経営)が上手くいかなくとも、個人の収入や保有する資産から返済してもらえば問題なかったはずでした。

ところがかぼちゃの馬車事件におけるスルガ銀行とシェアハウスオーナーの合意レベルは、それをはるかに超えて、「銀行がアパート運営事業のずさんさに気付かなかったことが悪い」というレベルになってしまっているのかもしれないのです。日本における貸し手責任は法律で明記されている訳でもなく、判例も少ないので確定的ではありませんが、貸し手責任の範囲が拡大しつつあることは間違いありません。

そうなれば、むしろ最初からノンリコース型のアパートローンを提供した方が、通常のアパートローンよりも金利が高くなることが一般的(銀行が負うリスクが高いため)だけに、逆に儲かるかもしれませんし、潜在的な借り入れニーズが顕在化するかもしれません。

ノンリコース型のアパートローンは、銀行は「不動産」にお金を出しています。リコース型のアパートローンは「人」にお金を出しています。

今後、ノンリコース型が生み出されていくのであれば、それに見合った不動産の目利きを銀行は作っていかなければならないでしょう。これまでは、最終的に個人の収入や資産背景を見て貸せば良かったのであって、不動産を見る目はある程度あれば良いということで問題ありませんでした。しかし、ノンリコースローンでは、むしろ不動産の目利きこそが必要とされます。銀行間で差がつくことになるでしょう。

ノンリコース型のアパートローンがあれば、不動産投資にチャレンジしてみたいと考える個人は存在するはずですから、不動産マーケットに活況をもたらすかもしれません。もちろん、家余りの世の中であり、銀行の融資姿勢も簡単には緩和されません。しかし、儲け口が少ない地銀等の中には不動産融資で収益を上げていかなければ業況が厳しいところもあるものと思われます。

話は逸れましたが、今回は、アパートローンの借り入れでは、このような個人についての属性を銀行員がチェックしている、というお話をしました。

特に、相続について銀行員から問い合わせを受けると想定していない投資家(相続対策でアパート投資を検討せず、純粋に不動産投資を検討されている方の場合)は多いのではないでしょうか。これからアパートローンを活用して不動産投資を行おうと考えている方は、ぜひ参考にしていただきたいと思います。

                                                 株式会社寧広