木造アパートの屋外階段、防腐措置や検査体制強化へ

外階段が崩落した八王子市のアパート(2021年4月、編集部撮影)

東京都八王子市内のアパートで木造の外階段が崩落し、住人の女性が死亡した事故から約10カ月。国土交通省は再発防止に向け1月、「建築基準法施行規則の一部を改正する省令」などを公布した。4月1日から施行される。

法改正に合わせて、木造の屋外階段の防腐措置や定期点検を強化するための「木造の屋外階段等の防腐措置等ガイドライン」と「賃貸共同住宅に係る工事監理ガイドライン」を公表した。

事故の原因は、木製の踊り場の腐食と判明。物件を施工した則武地所のずさんな工事の実態が明らかになり、同社は事故の1か月後に自己破産を申請した。事故の発生により、同社の施工不良を見逃した法の抜け穴も明らかになった。

事故の教訓を踏まえ、ガイドラインでどのようなことが定められたのか。どのような物件が定期点検などの対象になり、オーナーは今後どのような対応を求められるのか。

「法の抜け穴」が招いた事故

ガイドラインの説明に入る前に、なぜこのような悲惨な事故が起きてしまったのか、改めて問題点を整理しておきたい。

事故が起きたのは昨年4月。東京都八王子市内にある築8年、木造3階建ての賃貸アパートで階段の一部が崩れ落ち、住人の女性が転落して死亡した。階段は鉄製だったが、踊り場に木材が使われていて、階段との接続部分が腐食したことが崩落の原因とされる。

建物の屋外階段は風雨にさらされることが予想できるにもかかわらず、木製でもよいのかという疑問がまず浮かぶだろう。建築基準法では、屋外階段を木製とすることは原則、禁じられている。ただ、「準耐火構造のうち有効な防腐措置を講じたものを除く」という例外がある。このため、木製とすること自体は明確に違法とは言えないのだ。

さらに、「有効な防腐措置」についても、木材の腐食を防ぐために具体的にどのような措置が必要かについての指針がなかった。このため、着工前の建築確認や竣工後の完了検査で、チェックする体制も整っていなかった。このような法の抜け穴を悪用した則武地所による施工不備は、死亡事故という最悪の結果につながった。

木造アパートの鉄骨階段も注意

事故の教訓を踏まえ、ガイドラインにはどのような内容が盛り込まれたのか。3つのポイントを紹介したい。

1.対象となる屋外階段のタイプ

ガイドラインでは屋外階段のタイプによって、適切な防腐措置や検査の実施を求めている。では、どのような屋外階段が適用対象になるのか。ガイドラインでは、4つのパターンを示している。注意すべきなのは、すべてが木製の階段や、木造と鉄骨を組み合わせた階段だけでなく、木造の躯体に取り付けられている鉄骨階段も含まれる点だ。外階段のある木造アパートの多くが対象となる可能性がある。

ガイドラインの対象となる階段の種類。一部が木造の階段も対象になる(出典:木造の屋外階段等の防腐措置等ガイドライン

2.新築時の検査体制を強化

次に、どのような防腐措置をとるべきか。従来は不明瞭だったこの点について、プラスチック繊維を使用した「FRP防水」やシートで覆って浸水を防ぐ「シート防水」などの適切な防水処理を施すことや、階段部分に水が溜まらないようにするなどの具体的な方法を示した。その上で、完了検査にあたっては、屋外階段が木造かどうかやどのような防腐措置を実施したかを書類に記載し、適切に措置が取られたかを確認検査機関などがチェックできるようにする。

3.新築以外も定期点検を

さらに、新築以外の物件についても、上記の4つのいずれかに当てはまる場合、木の部材が腐食していないかどうかなどの点検を所有者に促す。

具体的には、建物の老朽化や設備不良による事故を未然に防ぐための制度である「定期調査報告制度」を利用する。同制度の対象は、ホテルや病院など、不特定多数の人が利用する建物。対象となった建物の所有者は3年に1度、建物に異常がないかどうかを点検し、行政に報告しなければならない。

該当物件は維持管理コスト増加も

多くの不動産投資家にとって気になるのは、自分の物件が該当するのか、該当する場合にどのような影響が出るのか、という点だろう。

「則武物件以外にも、木造部分を含む屋外階段のある建物は多いだろう。実際にアパートなどを設計する場合、屋外階段を木造で設計しなければならないケースは結構多いのではないか」

こう話すのは、不動産投資家向けにSNSなどで情報発信している1級建築士のわんさん。その理由を次のように説明する。

「収益物件の場合、なるべく居室部分を広くしたいというオーナーが多い。そのためには階段と建物の接合部をなるべくコンパクトにする必要がある。しかし、重い鉄製の階段を支えるためには接続部分を頑丈に作らなければならない。このため、木造アパートの場合は階段の部材を軽量化することで階段周りのスペースを極力抑え、居室の面積を確保する方法がよくとられている」

以前に編集部が取材した則武物件の踊り場。下地には木が使われているのか、打診棒で叩くと軽い音がした

ガイドラインで対象とされた木造の屋外階段のうち、どのぐらいが、前述した「定期調査報告制度」の対象になるのかは定かではない。もし、この対象になった場合、オーナーは3年に1度程度、建築士に屋外階段の劣化具合などについて調査を依頼し、行政に報告する義務が生じる。また、点検で腐食などの問題が見つかった場合は、修繕費用が発生することになる。

定期報告などの実施が必要になった場合、物件オーナーの負担はどのくらい増えるのだろうか。「定期調査報告制度」の報告に必要な調査を実施する場合、建築士に依頼する費用がかかる。これを3年に1度のペースで行う必要があることを考えると、それだけでも相当なコスト増になると見込まれる。

また、新築時に適切な防水処理を施したとしても、防水効果は10年ほどしかもたないこともあるという。外壁塗装や屋上防水などと同様に、屋外階段についても本来は定期的なメンテナンスを実施するのが望ましいそうだ。

以前に編集部が取材した則武物件。木製とみられる踊り場に引っ掛けるように階段の鉄骨部分が固定されているが、手前側のビスが浮いている

新築時やその後の維持管理にかかる防水処理などのコストはどのくらいなのか。防水処理には、膜状のものを被せる方法や防水材を塗るだけの方法までさまざまな方法があり、費用もピンキリだという。

1級建築士のわんさんは「収益物件の利回りを追求するオーナーの要望に応えるためには、施工会社が施工の質を下げざるを得ない場合もある。コストを抑えようとするあまり、オーナーが意図せずして物件の安全性を犠牲にしてしまうこともあるということを知っておいた方がよい」と話す。

また、定期調査報告書をめぐっては、2018年の宅建業法改正に伴い、不動産売買における重要事項説明で保存状況を示すことが義務化された。わんさんはこうした事情を踏まえ「不適合がある物件は売りにくくなるのではないか」と、不動産投資への影響を懸念した。

投資家がコストを気にするあまり、意図せずして物件の質の低下を招いてしまう危険性がある。悲惨な事故の教訓を生かし、物件の新築や購入の際はコストだけにとらわれず、安全面が担保されているかどうかも重視した物件選定を行いたい。

                                                 株式会社寧広