新生銀行がSBI傘下へ、「買収防衛策」はなぜ直前で取り下げられたのか

ここ数カ月、金融業界を騒がせてきた「ある出来事」がひとまずの決着を迎えた。ネット金融大手のSBIホールディングス(以下、SBI)が、新生銀行に対してTOB(株式公開買付け)を実施していた件で、新生銀行が昨日(11月24日)、買収防衛策を取り下げ、臨時株主総会も中止すると発表したのである。SBIが圧倒的に有利との下馬評通りの結果となった。

一部報道で話題となっていた今回の騒動。不動産向け融資に直接は関係しないため、詳細を知らない読者も多いかもしれない。しかし新生銀行が今後、公的資金返済のために新たなビジネスモデルを構築するなかで、個人向け不動産ビジネスを展開する可能性も考えられる。またそもそも今回の件は、銀行が敵対的買収を仕掛けられたという大変珍しいケースである。今日まであまり興味がなかったという方も、ぜひ目を通してみてほしい。

SBIを怒らせた、マネックスとの業務提携

まずは今回のTOB劇について簡単に振り返っておこう。

TOB(株式公開買い付け)とは、主に企業買収の手段として行われるもの。目的は相手企業の株式の取得だが、TOBの場合、買い手側が買付期間や買取株数、価格を公表したうえで、対象企業の株式を既存の株主から買い付ける。通常の株取引のように取引市場を通して大量の買い付けを行うと、株価の急騰につながる恐れがある。そのため、取引所外で行われるのである。

そしてTOBには、事前に相手企業の同意を得て行われる「友好的TOB」と、相手企業の同意を得ずに行われる「敵対的TOB」がある。今回のSBIによるTOBはこの「敵対的TOB」であった。冒頭で述べた通り、銀行を相手とした敵対的TOBは経済への影響が大きいことなどから、過去に実現した例はない。ではなぜ今回、SBIは新生銀行に対し敵対的TOBを仕掛けることになったのだろうか。

北尾吉孝社長率いるSBIはこれまで「第4のメガバンク構想」を掲げ、地銀への出資を進めてきた。2019年にはその一環として、新生銀行に業務提携を提案している。「第4のメガバンク構想」の中核に新生銀行を置き、資本提携する地銀との関係強化などにより企業価値を上げるねらいがあった。

しかし新生銀行はSBIの提案を却下、さらには2021年1月にはSBIと競合関係にあるマネックス証券との業務提携を発表する。これにSBIの北尾社長が激怒、関係が悪化することとなった。

臨時株主総会で「ポイズンピル」導入を検討

その後、SBIは新生銀行株の取得を着々と進めていった。事業会社が銀行の株式の20%以上を取得する場合に「銀行法」で求められる、金融庁の認可も得たうえで、今年9月9日にTOBの実施を発表。買付価格は当時の株価より4割ほど高い1株2000円であった。

一方の新生銀行は、事前通告のない敵対的買収を仕掛けられたとして反発、10月21日にはTOBに条件付きで反対すると発表した。具体的にはSBIが取得価格を引き上げればTOBに賛同するとした内容だったが、SBIはこれに応じなかった。そこで新生銀行は買収防衛策として「ポイズンピル(毒薬条項)」を導入すると発表。SBIを除く株主に対して新株の予約権を割り当て、SBIの持ち分を薄めるという方法である。

新生銀行は、11月25日に臨時株主総会を招集しポイズンピルを発動、SBI以外の株主に1株あたり普通株0.8株を付与する新株予約権の割り当てを審議し採決する予定だった。仮に、可決されていれば、TOBが成立してもSBIの保有比率は最大30%程度にとどまることになり、SBIによる子会社化は事実上不可能となっていた。

各株主の買収防衛策への賛否に注目が集まるなか、最終的には、合わせて20%以上の株式を保有する「預金保険機構」と「整理回収機構」が買収防衛策に反対に回るとの報道も出た。過半数を獲得するのが事実上困難となったことで、新生銀行は買収防衛策を取り下げることになった。

グラスルイス、ISS登場で形勢一変

ここまでが、今回起きたことの経緯である。

もともと、SBIの北尾社長は「新生銀行に対するTOBで99.9%勝つと思っている」と語っており(日本経済新聞2021年11月12日)、臨時株主総会で買収防衛策は否決され、結果的にTOBが成功するシナリオに自信を示していた。実際、北尾社長のメディアへの積極的な登壇に加え、金融庁や財務省などの大物OB、さらには米大手投資銀行や大手弁護士事務所も加わったSBIの陣容を前に、このまま新生銀行は策なくSBIの軍門に下る、というのが大方の予想だった。

しかし11月に入り、機関投資家に議案への賛否をアドバイスする米国の大手議決権行使助言会社「グラスルイス」と「ISS(インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ)」の2社が、それぞれ買収防衛策への「賛成」を推奨するレポートを発行し、形勢が大きく変わった。

グラスルイスとISSは共に、他の少数株主が不利益を被る可能性などを指摘。ISSは、SBIによるTOB後の計画説明が不十分な点や、子会社の管理監督能力への懸念も指摘した。新生銀行はこれを受け「当行取締役会の考え方が支持された」と表明している。

これは非常に大きなニュースだった。通常、株主擁護の立場から、買収防衛策に反対するケースが多い世界最大の助言会社2社が、共に賛成を表明すること自体が異例であり、それほどSBIサイドに不明点が多かったということだろう。

近年、国内外の資産運用会社や生保など機関投資家の多くは、議決権行使の方針と結果を公表するようになっている。その意味でも、グラスルイスとISSという世界的に影響力がある大手助言会社が、新生銀行から独立した立場で、買収防衛策について独自に分析したうえで賛成に至った事実は重い。

こうした状況から、新生銀行の買収防衛策が発動される公算が高いと見る向きもあったが、すでに述べた通り最終的に新生銀行はこれを取り下げることになった。

SBIに対する懸念点も影響か

新生銀行が買収防衛策を取り下げたことで臨時株主総会も中止となった。しかし、仮に開催されていれば(1)少数株主への不利益、(2)SBIのガバナンス、執行能力への懸念、(3)SBIにも明確な公的資金返済プランがない、といった点から、新生銀行の大株主に名を連ねる機関投資家のいくつかは、買収防衛策支持に回ったとみられる。

また、SBIでは不祥事やトラブルが多発しており、銀行運営におけるガバナンスや執行能力を疑問視する声も根強い。

例えば、SBI証券では2010年にシステム障害を放置し顧客が売買できなくなるという問題が起きていたほか、2020年には第三者による不正アクセスにより顧客資金が約1億円流出する事件も起きていた。そして2018年には住信SBIネット銀行で個人情報の漏洩があり、さらに今年、SBIソーシャルレンディングでは、不正融資により業務停止命令を受け、廃業となったことは記憶に新しい。

SBIにも公的資金返済の具体案なし

北尾社長はこれまで、 「20年以上にわたって公的資金を返済できない唯一の銀行だ」「自分たちが金を借りていて、返さないなんてありえない。金を返さないっていうのは、泥棒と一緒」と新生銀行を批判してきた。

しかしながら、実はSBIも公的資金返済に向けた計画は持っていなかった。公開買付届出書においても「SBIらおいても内部的に具体的な返済方法については本日現在未定」となっていたのだ。

現実問題として、新生銀行における公的資金要返済額3494億円を前提とした場合の株価は7448円となり、SBIのTOB表明前段階での株価1440円から考えると、はるかに遠い水準にあり、流石のSBIでもどうこうできるものではない。

SBIの掲げる「第4のメガバンク」構想の中核に新生銀行を置き、企業価値を上げて公的資金の返済にもつなげるというが、そもそも「第4のメガバンク」構想に参加する島根銀行など地銀は子会社化されたわけでもない。仮にそれら地銀8行に新生銀行を加えたとしても、たかだか総資産は22.6兆円だ。

例えば、3大メガバンクの一角であるみずほFGの総資産225.5兆円に対して、10分の1程度の規模であり、上位地銀1行レベルの規模に過ぎないのだ。前出のISSも指摘するように、公的資金返済を含め、肝心のTOB後のビジネスモデルをどう構築するのかが、SBIには今後より一層問われることになる。

新生銀行の今後の課題

いずれにせよ、新生銀行による買収防衛策が取り下げられたことで、SBIによるTOBが計画通り進むことになる。

しかしながら、グラスレイズやISSも指摘するように、(1)少数株主への不利益、(2)SBIのガバナンス、執行能力への懸念、(3)SBIにも明確な公的資金返済プランがないなど、SBIサイドの懸念事項も多い。もともと新生銀行自身が抱えてきた成長戦略がないという問題も解決したわけではない。この先、公的資金返済のためには、さらなる収益の確保が大前提だ。前期451億円の最終利益をいかにして増加させて、資本を蓄積し株価上昇に繋げていくのか。

現状の新生銀行は、銀行という名のノンバンクといえる。過去に買収した旧レイクを母体とする新生フィナンシャル、アプラスフィナンシャル、昭和リースの傘下3社による、無担保ローン、ショッピングクレジットなどにより利益の大部分がもたらされているのだ。実際、新生銀行全体の利益のうち、これら傘下3社によるノンバンク業務が占める割合は75%に達している(与信関係費用加算後の実質業務純益、2020年度末)。

公的資金の完済は、個人向けビジネスの強化など足元の収益確保に加え、大胆なリストラ、非上場化、100%子会社化、虎の子である傘下ノンバンクを分離売却するといった大胆不敵な奇策を組み合わせない限り、この先も簡単には実現できないだろう。

                                                 株式会社寧広