リーン成長戦略、14分野で野心的な環境目標
2050年以降には全ての住宅で排出量ゼロに
政府が昨年12月、2050年の温暖化ガス排出量をゼロにするための工程表「グリーン成長戦略」を決定した。「40年に洋上風力を最大4500万キロワット導入する」「30年代半ばまでに国内の新車すべてを電動車にする」など、14分野にわたって野心的な目標を並べている。住宅に関しても「ZEH(ゼッチ)の普及を通じて30年に新築住宅からの排出量を実質ゼロにする」との目標を掲げた。
社会の環境意識が高まる中、環境に優しく、住むにも快適な賃貸住宅は、家賃を高めに設定したり入居率を上げたりできるといったメリットにつながるはずだ。今回は、政府がグリーン成長戦略において住宅分野で何を目指しているのか、詳しくみていきたい。
50年の温暖化ガス排出量ゼロは、昨年就任した菅義偉首相が掲げた公約だ。グリーン成長戦略は、それを実現するためのスケジュール表といえる。
掲げられた14分野のうち、住宅についての工程表は以下の通りだ。

https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201225012/20201225012-1.pdf
目標を抽出すると、以下のようになる。

つまり、「30年の目標として、新築の住宅はZEH、ビルはZEBを標準とすることで温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする」「50年以降には同様に、すべての住宅、ビルで排出量を実質ゼロにする」ということを意味している。
ZEHはエネルギー消費が実質ゼロの住宅
大手メーカーでは5割がZEHに対応
ここでZEHとZEBについて説明しておく。
ZEH(ゼッチ)は「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」の英語の頭文字をとった言い方だ。
かみくだくと、屋根の上で太陽光発電を行ったりしてエネルギーを作ると同時に、断熱性や省エネ性能を上げてエネルギーの使用を減らし、実質的なエネルギーの消費量をゼロにした住宅、ということになる。

https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/general/housing/index03.html
政府の定義によると、「外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅」だ。
一方、ZEB(ゼブ)は、「ネット・ゼロ・エネルギー・ビル」の略。ZEHと同じく、省エネによって使うエネルギーを減らし、同時に使う分のエネルギーを作り出すことで、エネルギー消費量を実質ゼロにするビルなどをさす。

http://www.env.go.jp/earth/zeb/about/index.html
ここでは、マンションや戸建て住宅の賃貸運営に大きく関わるZEHを見てみよう。
もともと政府は、「2020年までにハウスメーカー等が新築する注文戸建住宅の半数以上をZEHとする」との目標を掲げていた。
しかし政府によると、現時点で「大手住宅メーカーに限れば約5割に達する」ものの、「注文戸建住宅の全体で見れば2割」にとどまり、目標は達成できていない。
ZEHに積極的な「ZEHデベロッパー」に認定された会社には、旭化成ホームズ、穴吹工務店、伊藤忠都市開発、近鉄不動産、積水化学工業、積水ハウス、大東建託、大和ハウス工業などがある。

https://sii.or.jp/zeh/developer/search
政府は普及が進んでいないことに絡み、次のようなものを挙げている。
供給サイドに求められる課題としては、「中小工務店における省エネ住宅の取扱いに係る体制や能力、習熟度の向上」。
普及が進まない需要サイドの理由としては、「既存住宅・建築物の省エネ性能向上にかかる費用負担」「消費者の認知度の低さ」「メリットに対する理解度の低さ」など。
ZEHを賃貸運営するメリットは物件の魅力アップ
デメリットはコスト、補助金でカバーを
ただ、グリーン成長戦略を見てわかる通り、これからの社会では、「環境への配慮」が重要なキーワードになるのは間違いない。社会全体の環境意識が高まることを考えれば、賃貸物件の運営でも「環境への配慮」が大きな武器になるはずだ。
ここで、ZEHを賃貸物件として運営するメリット、デメリットを考えてみたい。
メリットとして考えられるのは、入居者にとって魅力が高い物件になることだ。
断熱性が高くエアコンが効きやすいので、室内で冬は暖かく、夏は涼しく過ごすことができる。また、エアコンが効きやすいことは、電気代の節約につながる。ほかの設備などの省エネ性能の高さも電気代を抑えることにつながる。
こうした物件の魅力は、賃料を高めに設定することを可能にするだろう。また、入居者が集まりやすくなり、入居率が高まることにもつながる。
加えて、物件で太陽光発電を行えば、余った電力を売電して収益を得ることもできる。
これに対してデメリットは建築コストの高さだ。通常の建築より数百万円かかるともいわれている。このコストの高さは、補助金をうまく活用することでカバーできる。
参考までに20年の補助金に関する資料を以下に挙げておく。21年度も、予算がこれから開かれる国会で可決されれば、具体的な制度設計が行われるはずだ。

https://sii.or.jp/moe_zeh02/uploads/zeh02_pamphlet1.pdf
高まる社会の環境意識を自分の賃貸経営にどういかしていくか、賢く戦略を練っていきたい。
株式会社 寧広