損害保険悪用は犯罪。災害多発・将来不安で頻発、横行する詐取に金融庁が警鐘

先行き不安の現状に加え、ネット利用者が増えていることを狙ってか、ウェブ上にはスパムや怪しい広告が横行している。

そのうちでも注意したいのは一戸建てなど不動産所有者を狙い、損害保険の請求をすれば保険金が支払われるという類のもの。

お金がもらえるならと安易に口車に乗ると保険金が下りなくてもコンサル料を支払う必要が生じたり、犯罪に問われる可能性もある。また、実際に被害を受けた時に必要な保険金が払われなくなるとしたら、目先のおトクに喜んではいられないはずだ。

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きっかけは保険の自由化、災害

保険金請求を商売にする人たちが登場し始めたきっかけは1996年の保険業法改正以降の保険の様々な面での自由化、特に2001年以降に一気に増えた住宅総合保障型火災保険商品がきっかけだったのではないかと保険ヴィレッジの斎藤慎治氏。

それまでは名称の通り、火事だけが対象だったが、自由化をきっかけに対象が拡大した。

一般社団法人損害保険協会のホームページによれば火災保険とは「火災だけではなく、風水災などの自然災害や、盗難などによって「建物」や「家財」などに生じた損害を補償する保険です。」という。非常に幅広い損害を対象にするようになったのだが、名称が火災保険ということもあり、また、一気に対象が拡大したことで一般の人の認識がそれについていけなかったのだろう、いまだに火事にしか保険金が出ないと思っている人もいるという。

そんな、保険商品の多様化についていけていない人たちに「実はこれにも保険金が出るんですよ」と教えることを思いついた人がいた。

教えてあげたのだから、その一部をくれという人もいただろうし、悪意ではなく、保険金をもらえればお金が無くて修理ができない人が助かると考えた善意の人もいたはずだ。

だが、お金が絡むとどうしても悪いことを考える人が出てくる。そのうち、損害を自作自演する人や受けてもいない損害を申し立てる人、存在しない損害のでっち上げ方を指南する人も出てくる。

きちんと補修することを目的にアドバイスする人から、最初から補修するつもりなどなく保険金の上前あるいはコンサル料だけを騙し取ろうという人、保険金が下りていなくてもコンサル料だけを踏んだくる人、杜撰な形だけの工事をする人まで玉石混淆(といってもかなりが石と思われるが)というのが現在の状況である。

前述の損保協会が最初に「住宅の修理などに関するトラブルにご注意」と題する記事をホームページにアップしたのが2011年ということを考えると、以降の災害の多発もこの手口を助長したと思われる。

大災害後であれば、損保会社は忙しく、ひとつひとつ精査する時間はなかっただろう。悪意の人たちにとってみれば良いチャンスだったと言えるのだ。

保険業界にも隙がある

しかも、損害保険業界にはそうした人たちが付け込みたくなる隙もある。ひとつは2005年以降しばらく続いた保険金不払い事件だ。

それまでは被害を受けてから30日以内という期限を切っての通知義務があったのだが、それがなし崩し的に反故になり、今では速やかにという程度の文言になっている。

災害被害は30日を過ぎると劣化が進み、本来の被害の姿が分からなくなる。それを防ぐための30日以内の通知義務だったのだが、今では3年以内に請求の意思を伝えれば良いということになり、いつだか分からない被害の申し立てに繋がってもいるのである。

また、保険金が下りた後の補修についての報告が不要という点も付け込まれている。

現場で被害認定に当たっている大久保新氏によると「コンサルを名乗る業者に保険金を取れますよと言われ、コンサル料を払ってもお小遣いになるならと安易な気持ちで保険を申請、補修をしないという例が多々あるようです。

ワケが分からないまま、言われる通りに申請している人もいますが、直さなくてよいと言われた時点で怪しい業者ではないかと疑ってみたほうが良いかもしれません」。

保険の専門家である代理店が過去に不当請求の片棒を担ぎ、災害に関しては代理店が介入できなくなったのも隙のひとつ。建設関係をはじめ、有象無象の名称だけコンサルタントが代理店ができなくなった仕事に入り込んでいるのである。

損保各社が情報を共有していないという点も狙われている。

自動車保険の場合には加入者情報は共有されており、事故の履歴がある人はどこの保険を利用してもその履歴に応じた等級で契約することになる。

ところが火災保険の場合にはそれがない。自動車保険の場合には修理工場に直接修理代金を払う仕組みがあるが、火災保険にはそれがないなど、その他にも違いがある。

同じ保険業界でありながら、火災保険には悪い人が手を出したくなる隙がいくつもあり、近年の災害多発がそれに輪をかけている。火事場泥棒が頻出しているわけである。

屋根、雨樋が狙われる理由

怪しい申請で多いのは屋根、雨樋の被害。理由は簡単で足場が必要になるからである。住宅の改修工事等に詳しい人であれば足場を組むだけで費用が跳ね上がることはご存じだろう。足場を組むという名目で多額を請求できる、それが屋根、雨樋の被害申請の背景にある。

前述の大久保氏は現場とは異なる状態の請求をたくさん見てきたという。

「勾配のない屋根で足場を組まなくても補修できるのに、足場代が含まれた請求は非常によくあるケース。塩化ビニール製で、本来は伸縮する雨樋が硬化するほど放置されて曲がっているのを台風で歪んだと言い張る例も多々。台風で飛んだというのに不自然にずれている瓦など、プロが見ればおかしいと分かるものを台風などの被害と平然と主張する例が少なくありません。

ボロボロのブルーシートが被せられた家は1~2年前の台風被害と言えないほど天井が腐って劣化していましたし、10何年前の漆喰の剥がれは明らかに経年劣化。

それを指摘すると数年前に塗り直したと反論されましたが、外壁塗装は足場が必要で100万円以上の費用がかかるため、他の工事と一緒にやるのが一般的。それを外壁だけをわざわざやり直したと主張されましたが、証拠もなく、おかしな話でした」。

現場の状況が不自然なだけでなく、請求の根拠となる概算を出してくる事業者にもおかしな点があるという。

「鹿児島での被害なのに事業者は東京、大阪に本社があることになっており、調べると実在していない会社。あるいは工務店だというのに都心部のバーチャルオフィスに事務所があるなど不審な事業者も。建築関連の知識がないのか、見積もり自体に精密さ、リアリティがないこともよくあります」。

撲滅に向けて保険会社も動きだした

当然、そうした会社は保険会社のほうでもチェックしている。2020年からは撲滅に向けて手を打たれつつあると斎藤氏。

「2020年は幸いなことに台風がひとつも日本に上陸しませんでした。ところが台風被害の申請がじゃんじゃん来た。これはおかしいと調査してみたところ、劣化を台風被害として申請している例が多数あることが判明。これに対して金融庁が業界に対処を求めたのです」。

保険業界と聞くと大企業が多く、利益を上げていると思われがちだが、それは大きな勘違いだと斎藤氏。海外で稼いでいるメガ損保ですら収益はとんとんか赤字だというのである。

要因のひとつは近年相次ぐ巨大災害だ。たとえば、2019年には9月に房総半島に大きな被害をもたらした台風15号、10月に東日本を襲った台風19号が発生、保険金支払額は4656億円、5826億円に及んだ。その前年、2018年の台風21号では1兆678億円が払われている。

損害保険会社は確実に保険金を支払うためにいくつかの仕組みを持っている。そのひとつが責任準備金。これには普通責任準備金、異常危険準備金、危険準備金など5種類があり、そのうちのひとつが巨大災害に備えた異常危険準備金。それがこのところの災害で大きく減少しているのである。

もうひとつの仕組みは再保険。保険会社も保険をかけてリスクを分散させているのだが、その保険料が災害の多発で値上がりしている。手持ちの準備金は足らず、再保険料は値上がるという踏んだり蹴ったりの状態の結果が2021年1月の保険料の値上げである。

損害保険保険料は損害保険各社が組織する損害保険料率算出機構が算出しており、2018年、2019年と各社が保険料を設定するときの基準となる「参考純率」が引き上げられているのである。

実際の保険料はこの数字を参考に各社が決めるため、実際の値上がり率や時期はそれぞれで異なるが、保険料は値上がり基調にあるのは間違いなく、さらにそれが続くこともほぼ間違いないと言える。

その一方で違法な支払いが横行しているのはどうかというのが金融庁の問題意識。本当に保険金が必要な時に支払われない事態が起きたら多くの人が困窮することになる。保険金を受け取り、一時的に儲かったと思っても、その保険金でするべき改修をしていなければ本当に被災した時に保険金が払われない事態もありうる。

それにそもそも「保険金詐欺は執行猶予のつかないことも多い、厳しく罰せられる犯罪です」と斎藤氏。「貰えるなら貰っておこうと安易な気持ちで考えているのか、悪いことと思っていない人も多く、平気で火災保険スキームなどと称してセミナーをしている人もいますが、これは犯罪に問われる可能性のある、悪質な行為です。自覚していただきたいですね」。

                                            株式会社 寧広