戸建てとアパートで明暗、負の遺産「限界ニュータウン」の今

千葉県北東部の分譲住宅地には、今も膨大な数の更地が残されています。1970~80年代の地価上昇の時代に、値上がりを期待して投機目的で購入された土地です。このような分譲地は、市街地から遠く離れた場所に造成されていることも多く、バブル崩壊を経て住民が流出。空き家や空き地だらけのまま放置された「限界ニュータウン」となっています。

以前に出演した楽待チャンネルでは、限界ニュータウンで土地の処分に悩む所有者を狙った悪徳商法が横行している実態をお伝えしました。また、前回の記事では、賃貸需要が旺盛とは言えない地域で不動産投資を行うリスクについて考察しました。

では、限界ニュータウンの物件に活路はあるでしょうか。今回は、地場の不動産会社への取材を基に、限界ニュータウンの不動産取引事情について、お伝えしたいと思います。

悪徳業者が暗躍する背景

千葉県北東部に存在する古い分譲住宅地でも、営業エリアとしてカバーする不動産会社は、いくつもあります。ただ、このような分譲地の不動産価格は安く、仲介業務は決してうまみのある仕事とは言えないでしょう。

私が注目し始めた5年ほど前、ある限界ニュータウンの物件価格は築30年程度の3〜4LDK戸建てで、安いものは150万円程度でした。300万円前後であれば普通に見かけました。現在は当時よりも引き合いが強く、価格も上がっていますが、築30年程度で500万円前後の物件は見かけます。土地は条件が悪いと、坪1万円以下でもなかなか売れません。近隣の市街地と比べると10分の1~20分の1以下です。

限界ニュータウンの不動産取引の実情を知るため、成田市の不動産業者Aさんに話を聞きました。(話の特性上、匿名にさせていただいております)。

Aさんの会社は、市内の限界ニュータウンの土地や中古住宅、賃貸物件も扱っています。問い合わせは、売却を切望する土地所有者からのものが圧倒的に多いそうです。

持て余している不動産を、子供に相続する前に処分したいという思いから問い合わせてくるのでしょう。残念ながらそのような土地の多くは、売却の見込みも立てられない無価値なものだといいます。

千葉県北東部の売地。膨大な数の空き地が売りに出されているものの、需要は少ない(著者撮影、写真の一部を加工しています)

しかし、遠方に住む所有者の多くは現地の不動産事情に疎いどころか、そもそも購入時から、一度も自分の土地を見たことすらない方も珍しくありません。限界ニュータウンの相場を知らない所有者が「安値」と考える価格でも、仲介業者からみれば「非現実的な高値」というケースは多々あります。

業者側が取引事例に基づいた実勢相場で査定したとしても、あまりにも低い査定額に所有者は落胆したり、場合によっては怒りを露わにしたりすることもあるそうです。「不動産の価格は必ず値上がりする」という土地神話の時代を生きた世代の所有者も多く、埋め難いギャップがあるのが実情です。

地元業者の元には頻繁に土地の売却依頼が舞い込むが、管理状態が悪く、ほとんど値段がつけられないものも(著者撮影、写真の一部を加工しています)

昨今は、インターネット上で同時に複数の業者に所有物件の査定を依頼できる「一括査定サイト」が登場しています。こうしたサイトを介して、限界ニュータウンの土地の査定依頼がAさんの会社に届くことも多いといいます。

Aさんが利用するサイトは、査定回数に応じて事業者が手数料を徴収される仕組みです。高値が付く土地なら成約による収益が見込めますが、二束三文の土地では手数料の負担ばかりが増えるのです。だからと言って、返答をしなければ依頼者からのクレームにつながりかねません。

このような事情を背景に、土地所有者の失望や焦燥に付け入る悪徳業者が存在するのです。相場とはかけ離れた高額の査定額を提示し、不法な手数料を詐取する手口です。一般の不動産会社の低すぎる査定額に落胆し、場合によっては仲介自体を断られてしまった所有者が悪徳業者の餌食になってしまう恐れがあるのです。

中古戸建て市場は活況

中古戸建てに関しては、限界ニュータウンの物件でも引き合いがあるようです。

成田市の中心市街地「成田ニュータウン」や「公津の杜」といったエリアはもともと人気があります。物件相場は、新築の一戸建てでおおよそ3000万〜4000万円です。中古戸建てはそもそもほとんど出てこないのですが、築20年前後であれば通常2000万円はすると思います。成田ニュータウン開発当時に建てられた築40年以上の戸建てで、「古家付き土地」として扱われるものでも、1000万円を下回ることはまずないでしょう。

さらに、コロナ禍以降は、リモートワークの増加で郊外人気が高まりました。こうした影響もあってか、人気エリアでは出物がほとんどなくなってしまったところもあるそうです。こうした背景もあり、中古戸建ての物件価格は総じて上昇しています。本来は任意売却物件として相場より安値で取引されるような物件でも、高値で売却して債務を完済できる可能性が高いといいます。

限界ニュータウンの中古住宅価格は高くはないが、土地よりは引き合いがある状態という(著者撮影)

格安の中古戸建て市場は、不動産投資家が下支えしている側面があります。実際に、仲介業者が格安の中古戸建てを取り扱う際は、「最終的には投資家が買ってくれるだろう」と見込みます。

一方で、一部の個人投資家は、非常識な指値をしてくるケースがあるといいます。このような投資家からの問い合わせに対して「そんな値段で買えるなら(仲介業者が)自分で買うよ」と愛想を尽かす不動産会社もあるようです。よほど収益性の低い物件でもない限り、今は投資家による無理な指値を受け入れる理由がないからです。

物件の供給が減少する中、仲介に代わる営業手法として、不動産会社自らが中古住宅を買い取り、賃貸経営を行うケースも増えています。特に物件価格の安い限界ニュータウンの場合、仲介で得られる手数料は限られています。賃貸需要が見込めるのであれば、収益物件として運用する方が業者としても堅実なのです。

前回の記事では、千葉県山武市にある収益物件の苦境をレポートしました。成田市も同じ千葉県北東部にありますが、戸建て貸家の場合、入居者が長期間決まらないことはほとんどないそうです。

高額の家賃が望めるエリアではありませんが、手堅く運用すれば10%以上の利回りは見込める地域です。収益物件の出物を狙う業者や個人も少なくないようです。

築古アパートは苦境

限界ニュータウンでも戸建貸家は引き合いがある一方で、苦境に追いやられているのが、賃貸アパートです。戸建て中心の限界ニュータウンの中にも、築30年ほどのアパートを見かける機会があります。これらのアパートは、バブルの時代、遠方に住む投資家が収益物件として運用していたものです。

アパートというものは年月を経るごとに外壁などが陳腐化します。築30年が経過したアパートは、もはや設備面における訴求力はほとんどありません。

大掛かりな改装を実施して、バリューアップを図れば、家賃アップも期待できますが、限界ニュータウンのアパート賃料相場は、ワンルームで2万円台、2DKでも3万円台程度ときわめて低水準です。大規模な工事費用を捻出することは難しいのが実情です。

戸建て中心の限界ニュータウンで、築30年ほどのアパートを見かける機会も(著者撮影)

このような築古アパートに残された道は、賃料や初期費用の安さのみをセールスポイントにした運用のみです。しかし、良質な戸建の賃貸物件の増加によって次々と顧客を奪われている状況です。

コロナ禍以前の成田市周辺では、外国人労働者の社宅として企業が一括借り上げするケースも多く、賃貸需要をけん引していました。それもコロナ禍によって消え去ってしまった今、築古アパートは益々窮地に追いやられているのです。

賃貸市場から締め出された入居者

Aさんは「限界ニュータウンのアパートを収益物件として運用するには、大家として相当な覚悟が必要」と語ります。

賃貸市場で立ち行かなくなった限界ニュータウンの築古アパートが生き残る方法の1つとして考えられるのは、賃貸市場から締め出されやすい借り手を受け入れることでしょう。例えば、正規の就労ビザを持たず国内で不法に就労している一部の外国人労働者などです。

Aさんによると、不法就労の外国人といっても、意図的な家賃滞納などのトラブルはそれほど多くはないそうです。一方で、日本の商習慣を知らないことからトラブルに発展するケースはあります。例えば、無断で第三者に部屋を転貸してしまうといった場合です。

限界ニュータウンの一画に建つ賃貸アパート。長期間空室を抱えたまま、管理も行われなくなってしまった様子だ(著者撮影)

中には、ある時突然、部屋から姿を消してそのまま音信不通になってしまうようなこともあるといいます。そうなると、家主にとっては経済的にも精神的にも負担が大きくなります。

まず居室を片付けなくてはなりません。一般的な手法としては、まず居室の鍵を交換したうえで、英語の貼り紙をドアに貼り付けて連絡を待つ。それでも連絡がない場合は、居住者と連絡が取れない旨を警察に相談するのがよいでしょう。場合によっては、警察が立ち入り、その部屋が何かしらの犯罪行為の拠点として使われていた形跡がないかどうかを確認していくこともあるかもしれません。

賃貸市場から締め出されやすい入居者を受け入れるということは、一般的な入居者を受け入れるよりも高いリスクを背負うことになります。このような状況で、なんとか経営を成り立たせているアパートが存在するのが実情です。

リスクを恐れて、入居者を選別するのであれば、恒常的に複数の空室を抱えることになるでしょう。高額の賃料を設定することもできず、極めて不安定で収益性の乏しい賃貸経営になる恐れがあります。

Aさんによれば、限界ニュータウンの戸建賃貸市場に関しては今のところ、賃貸アパートと異なり、正常な賃貸経営が見込める状況にあるとのことです。しかし、これはアパートと戸建の特性の違いというより、賃貸市場全体における需給のアンバランスが生み出している結果と言えます。

今後、仮に戸建賃貸の競争が激化してしまった場合は、アパート同様、戸建賃貸の市場からこぼれ落ちてしまうものが出てくることは十分考えられるでしょう。

一賃借人である私自身、決して高い賃料を払っているわけではありません。ですから、家賃の値下げによって入居者の属性が下がる、などと露骨な言い方をしたくはありません。

住まいというものはどんな属性の方であれ、生活するうえで絶対に必要なものです。所有する物件が、その地域の賃貸市場における「立ち位置」を踏み外しかねないほどの過当競争は、可能な限り避けるべきだと思います。

                                              株式会社寧広