建物上部が斜めにカット、その理由は「道路斜線制限」にあった

建築Gメンこと、一級建築士の大川照夫さんが物件に足を運び、現地でチェックすべき点を解説する連載企画。不動産投資家が最低限知っておきたい建物の知識を、実際の物件見学の様子を交えてわかりやすくお伝えする。

今回見学したのは、東京都内にある築33年の鉄骨造一棟マンション。4階建てで、間取りは1Kが8戸、2Kが2戸、2DKが1戸となっている。今回は建物の外観と、4階にある2DKの部屋を見学した。

物件は線路に面しており、物件の目の前を頻繁に電車が通るという立地。騒音や振動がどのぐらいなのかは気になるところだ。また最上階の4階部分は「道路斜線制限」の影響で居室が1つしかなく、代わりに広いルーフバルコニーが設けられていた。今回は道路斜線制限の基本やルーフバルコニーのある建物の注意点などを含めて解説してもらった。

<今回の目次>
1. 建物の上階を斜めカット、理由は「道路斜線制限」にあり
2. 線路脇の物件は「振動、騒音」と「鉄粉」に注意
3. ルーフバルコニーは「防水の状態」と「排水能力」をチェック

上階が斜めにカットされている理由

まずは物件の外観から見ていく。少し離れた場所から物件を見上げると、建物上階の一部が斜めにカットされていることがわかる。また4階部分は3階の外壁ラインよりも奥に引っ込んだ作りになっていた。これはこの建物だけではなく、周辺の建物も同様だ。

赤い丸で囲んだ部分の上部が4階の居室部分。屋根が斜めにカットされ、上階は奥に引っ込んでいる

今回の物件のバルコニーから前面道路を見る。周辺の建物を見ても、上階が斜めにカットされたり、奥に引っ込んだりしていることが分かる

これは、建築基準法に定められた「道路斜線制限」の影響によるものだ。道路斜線制限とは、道路の風通しや日当たりが悪くならないよう、建物の高さを規制するためのもの。

下図のように、建物の前面道路の反対側にある境界線から一定の角度で線を引いたときに、建物がその線の内側に収まるように建てる、というルールである。

道路斜線制限の考え方。前面道路の反対側から一定の角度で線を引き、建物はその内側に収めなければならない(適用距離の範囲内のみ)。なお、道路斜線制限の他にも用途地域における絶対高さ制限など他の制限もある

建築確認図書の立面図(建物を真横から見た姿を描いた図面)でも道路斜線制限について確認する。道路斜線の影響を受けて3階の一部が斜めにカットされ、4階は内側に引っ込むように建てられていることが分かる。

立面図を見ると、道路斜線の範囲内で建築していることがわかる。なおこの物件は2つの道路に面しているため、2方向から道路斜線制限の影響を受ける。斜線にかかる部分を斜めにカットせず、ルーフバルコニーとしている

続いて断面図も見ていく。断面図には「採光ライン」と書かれた斜線が記載されていた。これは簡単に言うと、建物に太陽の光が当たるかどうかを示している。

建築基準法では、住宅の居室には「採光のための窓」が必要であると定められている。この建物の場合、このラインよりも建物側(画像の右側)にある窓は、採光のための窓として正しく機能するということがこの図から分かる。

断面図に「採光ライン」と書かれた斜線が引かれている。このラインよりも建物側(画像の赤色部分)の窓は、建築基準法上の「採光のための窓」となる。「採光のための窓」が設けられない場合は居室扱いにはできないため、「納戸」「サービスルーム」などとされる

なお、マンションの外廊下に面した部屋などで「納戸(サービスルーム)」との表示を見かけることがある。これは、窓がなかったり、床面積に対して窓が小さく、建築基準法が求める「採光のための窓」として機能していない場合に、居室としてカウントすることができないことを示している。

線路横に建つ物件はここをチェック!

今回の物件は線路のすぐ横に建っている。線路に近い物件をチェックするときに見るべきポイントはどのような点だろうか。

4階の玄関を出ると、目の前に線路が見える

最も重要なのは、音と振動の問題。電車が通るたびに騒音や振動が発生するとなれば、住環境の悪化につながる。賃料や入居者の定着率にも影響する可能性があるため、物件購入前に室内に入り、どの程度の音や振動があるかを直接確認しておいた方が良さそうだ。

振動が大きい場合、揺れによって外壁にクラックが生じたり、シーリングがひびで切れてしまったりということも考えられる。線路沿いの物件を見学する際は、そうした点もチェックしておきたい。

また大川氏は「電車とレールの間に生じる摩擦によって鉄粉が舞い、それが建物に付着してサビや汚れの原因になる」こともあると話す。この物件の場合、駅が近く電車が速度を落として走行するため、鉄粉の付着はほとんど見られなかった。

ルーフバルコニーの防水と排水

続いて室内へ。今回見学するのは最上階、4階にある2DKの部屋。道路斜線制限の影響で建物は手前側に引っ込んでおり、代わりに大きなL字形のルーフバルコニーが設けられている。

チェックすべきポイントは、防水性能に問題がなさそうかどうかという点だ。まず塗膜防水(緑色部分)の表面の状態を見ると、割れたり剥がれたりしている部分はなく、大きな問題はなさそうだ。今回、物件の修繕履歴などは不明だが、築33年の物件であることから「少なくとも1度は、防水のやり替えを含む大規模修繕を行っているはずだ」と大川氏は話す。

4階のルーフバルコニー。塗膜防水の表面に大きな問題点はなさそうだ

この物件のルーフバルコニーには、「脱気装置(脱気筒)」が3つ設置されていた。脱気装置の役割は、塗膜防水と下地のコンクリートとの間に生じる水蒸気を排出することだ。

脱気装置。塗膜防水とその下のコンクリートの間に発生した水蒸気を排気する

塗膜防水は通常、下地となる押さえコンクリートの上から施工されるが、塗膜防水とコンクリートの間には昼夜の温度差などで水蒸気が発生し、膨らんでしまうことがある。塗膜防水が膨らむと劣化の原因となり、最終的には雨漏りのリスクにつながる。

こうした不具合を防ぐために、塗膜防水とコンクリートの間に生じた水蒸気などを、脱気装置で排出する必要がある。

この物件でも、塗膜防水が膨らんでいる箇所があった。脱気装置を設けていない場合、こうした不具合が多発する可能性がある

続いて確認したのは、ルーフバルコニーの排水能力だ。通常のベランダより面積が広いため、排水能力が十分にあるかもチェックしておきたい。この物件のルーフバルコニーはL字型になっており、3カ所に排水口があった。

4階の平面図。L字形のルーフバルコニーの3カ所(赤枠)に排水口が設けられている

大川氏によると、広いバルコニーの場合は「複数の排水ルートを確保することが大事」だという。大雨などの際、1カ所が詰まってしまったとしても、他の排水溝から排水ができるためだ。

しかし、それぞれの排水溝を確認してみると、いずれも径が小さく簡単に詰まってしまいそうだった。大川氏によると、一般的なバルコニーの排水口は50パイ(直径50ミリ)程度。一方、この物件の排水口は目視でも20パイほどしかなさそうだ。

今回の物件のルーフバルコニーに設けられていた排水口。ちょうど指一本くらいの細さだ

大川氏は「バルコニーの防水をやり替えた時、工事業者が排水口の口径を間違った可能性がある」と指摘。「過去に雨漏りなどが起きた形跡がないため、問題ないのかも知れないがやや心許ない」と話す。ルーフバルコニーなど大きなバルコニーのある物件の場合は特に、排水能力に問題がなさそうかもチェックしておきたいところだ。

<今回のまとめ>
・「道路斜線制限」とは、道路の日照や採光、通風などを確保するために、建築物の高さを規制したルールのこと

・マンションなどで「納戸(サービスルーム)」と表示された場所は、床面積に対して必要な採光が取れないため、建築法規上、居室として扱うことができない

・バルコニーには2方向以上の排水ルートが確保されているか、排水口の大きさが樋の太さに見合ったものであるかを確認する

物件をひと通り見学した大川氏は「築33年の築古物件だが、1~2度修繕されている様子で、外観全体としては適切な維持管理ができている」と話す。また線路脇の物件ながら、振動による外壁のクラックや鉄粉によるサビもなかった。

一方、鉄骨階段の塗装が剥がれている箇所があったり、サビが進行している箇所があったりと気になる点もあった。また4階のルーフバルコニーでは3カ所に排水口が設置されたいたが、そのどれもが小さく、集中豪雨などの際には不安も残る。今後大きなトラブルが発生しないように、バルコニーの防水を修繕した業者に問い合わせて、必要な処置を検討する必要がありそうだ。

                                             株式会社 寧広