建て替えで資産価値上昇も、「老朽化マンション」投資はアリか

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昨年12月、政府が分譲マンションの建て替え条件の緩和を検討していることが報道された。建て替えに必要な所有者の賛同を現行の「5分の4」から、「4分の3」かそれ以下に引き下げることが、緩和策の柱となりそうだ。

マンションなどの区分所有建物に関する権利や管理運営について定めた「区分所有法」の改正をめざす。老朽化したマンションの増加に歯止めをかけることが狙いだ。

一般的にマンションの建て替えを行うことによって、資産価値は高くなる。建て替え後に売却益を多く得られる場合や、これまでよりも高額の家賃収入が見込める可能性もある。

一方で、建て替えによる区分所有者の費用負担額が大きく、年々上昇傾向にある。

マンション建て替えのメリットとデメリットを解説するとともに、今後建て替えを行うマンションは増えるのか、資産価値の上昇を狙って、あえて老朽化したマンションを購入する戦略はありなのか、考察する。

増え続ける老朽化マンション

そもそも老朽化したマンションは、市場にどれほどあるのだろうか。

2019年に国交省が発表したデータによると、市場に供給されているマンションは合計約654万7000戸。そのうち、築40年を超える旧耐震基準(1981年5月31日までに建築確認を受けた建物)のマンションは約103万戸あるが、これまで建て替えが行われたマンションは、2021年4月時点までで累計263件だ。

出所:国交省「マンション建替えの実施状況 」 建て替えが行われたのは2021年4月1日時点で263件

築40年を超えるマンションは今後も増加する。国土交通省の「築後30、40、50年超の分譲マンション戸数」によれば、2020年時点で、103万3000戸、10年後には約2.2倍の231万9000戸、20年後には約3.9倍の404万6000戸としている。

出所:国土交通省「築後30、40、50年超の分譲マンション戸数」 築30年を超えるマンションは年々増加している

建て替え条件緩和の背景

近年、南海トラフ巨大地震や首都直下地震など、巨大地震のおそれが社会的に取り上げられることが増えている。そのため、耐震性が不十分な老朽化マンションの増加は、不動産業界において解決すべき問題の1つだろう。

またマンションが老朽化すると、外壁などの剥落や鉄筋の腐食が発生しやすくなるほか、給排水管が劣化するなどして生活者に支障を及ぼす懸念もある。

そもそも、1つの建物に対して多くのオーナーが所有するマンションは建て替えるハードルが高い。オーナーによって利用目的や年齢、資産状況などが異なるため、オーナー同士の意見が一致しないからだ。

そのような背景から、建て替えに必要な所有者の賛同を現行の「5分の4」から、「4分の3」に緩和することが検討されているのだ。

今回、区分所有法が改正されれば、1983年に区分所有法改正で建て替え賛同割合が緩和(所有者全員から5分の4以上に緩和)されて以来、約40年ぶりの見直しとなる。

建て替えによる資産価値の上昇は見込めるか

建て替え条件が緩和された場合、建て替えを検討する築古マンションが増えることが考えられる。では、建て替えを行うことによって、どのようなメリット・デメリットがあるのだろうか。

建て替えで得られる最大のメリットは、資産価値の上昇だ。建て替え後に転売することでキャピタルゲインを得られる場合があることに加え、所有を続けることでこれまでよりも高額の家賃収入を見込むことができる。

一方、建て替えのデメリットは、高額になりがちな費用負担だ。国交省の「マンション標準管理規約」では、修繕積立金をマンション建て替え費用に使うことは、原則として認められていない。

マンションの建て替えによる区分所有者の平均負担額は増加傾向にある。国交省のデータによると、2012~2016年に竣工した建て替え後のマンションでは、区分所有者の負担額は1戸あたり平均1000万円以上となっている。

マンションの大規模化やセキュリティなどの設備面の向上によって、建築費や設備費が増加していることから、負担額が増加していることが考えられる。

出所:国土交通省「マンション建替え事業における事業採算性の低下」 マンション建て替えによる、区分所有者の平均負担額は年々増加傾向にある

区分所有者の負担額が大きいことから、話が進みにくかったマンション建て替え。一方で、敷地面積に対する建築延べ面積の割合を示す容積率の利用比率を高くすることができれば、住戸数が増え、その住戸を分譲することで建て替え費用を補うことも可能だ。

旧耐震基準のマンションで、耐震性が不足していると認定を受けたマンションの建て替えは、「マンションの建て替えなどの円滑化に関する法律」において、容積率が緩和される制度もある。

「容積率の緩和特例」制度を適用したマンション建て替え事業として国内第一号となったのは、東京都港区の「メゾン三田(1968年竣工)」だ。「ザ・パークハウス三田タワー」という名前に変わり、2021年3月竣工。建物の容積率を400%から463.5%へ割り増した。

これにより総戸数67戸、店舗1区画だったマンションが総戸数111戸に増加。増えた戸数は分譲販売されているため、その費用で建て替え費用を補うことができただろう。

建て替えを見据えた物件購入は戦略としてアリか

マンション建て替えの緩和策が実現すれば、建て替えを見据えた物件購入も不動産投資戦略として重要になってきそうだ。

今後、築古マンションの購入を検討する場合は、以下の点を確認しておく必要がある。

・余剰容積率があるか
・建て替え事業が決定もしくは計画しているか

これらの内容によっては、建て替え後の収益性が大幅に変わることになる。

容積率に余剰分がある物件なら、より多くの保留床(余剰住戸)を生み出せる。その住戸を販売することによって事業費に充てることができ、建て替え負担金も少なくて済む。

しかし、容積率に余剰分がない物件は、建て替え負担金が高額になることが予想される。負担金が多ければ、建て替えの検討も進みにくいといえるだろう。

特に旧耐震基準のマンションで建て替え計画がない場合は、耐震性などの観点からも物件の将来的な市場価格に影響を及ぼす可能性もある。

マンションを購入する前には、建て替え計画があるのかを確認しておきたいところだ。

マンション建て替えは、加速するのか

これまで、マンション建て替えのメリットを取り上げてきたが、建て替えの条件が緩和されても、多くの課題が残っている。

大きな課題として挙げられるのは、マンション居住者の高齢化だ。国交省によると、1980年以前に建てられたマンションでは、居住者が60歳以上のみの世帯が約50%だ。

所有者の中には、すでに定年退職を迎え、管理費などの支払いに苦慮する高齢者も少なくない。

国土交通省によると、管理費の滞納や組合の運営が難しいことを不安に感じるマンション管理組合は約15%に上っている。管理費などの滞納がある中で、高額な費用が発生する建て替えに賛成できない高齢の区分所有者がいるのは当然といえるだろう。

また高齢の区分所有者の場合、建て替え期間中の仮住まいの確保も困難だろう。毎月の家賃負担だけではなく、高齢を理由に賃貸物件の入居を断られるケースが多いためだ。

築年数が経過しているマンションほど高齢の区分所有者の割合が高いことを考えると、今回の緩和策だけで建て替えが急速に進むことは難しいと言わざるをえない。

マンション建て替えによる市場への影響は

マンションの建て替えが進んだ場合、新築マンションの供給数は増える。それによって新築マンション市場が下落することはあるのだろうか。

国交省のデータによれば、過去5年間で建て替え工事が完了したマンション数は36件で、平均すると年間で約7件にとどまる。規模により差はあるものの、1棟当たりの平均戸数を50戸とすると、年間で350戸程度しか建て替えられていない計算だ。

仮に今回の建て替え緩和案によって築古マンションの建て替えが倍増した場合でも、年間の建て替え数は14件、700戸程度にしかならないことになる。一方で新築マンションの年間供給戸数はここ数年、首都圏だけでも3万戸前後で推移している。

建て替えによる余剰住戸が市場に供給されても新築マンション市場への影響は限定的なものになると考えられる。

では、中古マンション市場への影響はどうだろうか。

建て替えを行うことによって資産価値の上昇が見込めることが多くの不動産オーナーに知られれば、建て替え計画がある築古マンションの市場価格は上昇していく可能性がある。

しかし、マンション建て替えは、マンション市場にさほど影響を与えることは無いだろう。都内で中古マンションの売買仲介を主に取り扱っている不動産会社の知人と、マンション建て替えについて議論したが、同様の見解だった。

そもそも首都圏で取引されている中古マンションの築年数は平均で22年前後となっており、旧耐震基準以前の築40年を超えるマンションは取引物件の主体とはなっていないからだ。

また、現在供給されているマンション総数のうち、築40年を超えるマンションの割合は約15%と少ない。それらの点から、築古マンションの価格が多少変動しても、その動向が中古市場全体に与える影響はほとんどないと考えられているようだ。

とはいえ、老朽化するマンションは年々増え続け、いずれはすべてのマンションが建て替え問題に直面する。

老朽化したマンションが資産価値を維持するためには、建て替えが最も合理的な方法だ。

今回の建て替え緩和案が実現すれば、すでに老朽化したマンションだけではなく、これから老朽化していくマンションにとっても朗報となるのは間違いない。

                                                 株式会社寧広