東日本大震災から10年。今なお地震への警戒が呼びかけられている。賃貸住宅においては、免震構造は少数派であり、免震の賃貸住宅は相場よりも0.5%ほど家賃が高く設定できるという。
免震構造に詳しい一級建築事務所 アルシプラン株式会社の代表で、日本最大級の建築家ネットワーク アーキテクツ・スタジオ・ジャパン株式会社(ASJ) に所属する榎本康三氏に話を聞いた。

いまは人々の意識が大きく変わるタイミング!
暮らしが変わることで、建築や不動産への影響は大
これまでに個人住宅から集合住宅、商業施設など1000棟以上の建築を手掛けてきた榎本氏。自然災害やコロナなど天変地異がつづくいま、大きく人の意識が変わるタイミングにきているという。
「311の後など、大地震や天変地異がきっかけで人々の意識が大きく変わるタイミングが来ています。コロナによって、今まさにその渦中にあると感じています。暮らしが変わることで不動産や建築も大きな転換を求められるでしょう。今後賃貸経営をされている方々は、二極化していくと考えます。1つは従来型の経営のやり方(マネージメント型)、もう1つは思いもよらない出来事や時代に対応していくやり方(クリエイティブ型)です。これらの変化に対応するには、より柔軟にクリエイティブな発想が必要になるとともに、新しいツールを持たなくては生き残っていけなくなるでしょう」
榎本氏が考える新たなツールとは、今後起こりうる大地震に備えた「免震構造」だ。免震とは、建物の下にゴムなどの装置を備えることで、揺れを抑制し、構造物の破壊を防止することを意味する。
「競争の激しい賃貸住宅において、建築家が建てる賃貸住宅がクリエイティブであることは当たり前。心がけていることは、施主の好むデザインや建築よりも、施主のためになるデザインであり設計です。収益物件ならば、なおさらコストも大きく、長期に渡った計画になり、大地震で建物が被害に合わないような対策が重要です」

免震構造の賃貸住宅はまだまだ少数派
入居者の評価は高く、家賃UPが狙える
大地震で多数の建物が同時に被災し、工事が集中すると、1~2年、復旧にかかり、入居者が住むことが不可能になり、その痛手は大きくなる。
新耐震基準が建物に求められるようになり、耐震構造の建物が建てられているが、耐震構造であっても、大地震がくれば、ある程度は建物が損害を受けることは避けられない。仮に建築費5億円の建物なら、1~2割の5000万円~1億は修繕費がかかるといわれている。免震構造であれば、その10分の1の修繕費ですむという。
「免震にするために1割ほどコストアップしますが、その分、柱や梁を縮小できるようになります。10階建てぐらいになると、免震構造にする費用と、耐震で建てた建物とコストが同じくらいになります」
まだまだ免震構造の賃貸住宅は少ないため、免震構造であることで、10万円なら10.5万~11万円ほど、家賃を約0.5%くらいはUPすることが可能になる。3~5階の低層階でも、免震構造にすることで家賃アップができ、免震にする費用くらいは補えるという。
社会貢献につながる安定性の高い事業者を
入居者に見据え、利回りを上げていく
昨今では新築アパートを建てても、満室にするのに苦戦するケースもある。榎本氏が手掛ける賃貸住宅では、新築の賃貸住宅を建てた場合よりも、1.2~1.3倍の利回りを確保している。その理由は冒頭で示した写真の建物のように、社会貢献につながる、安定性の高い事業者が入居しているからだ。
「千葉県での事例ですが、市場調査で待機児童が多いことが分かり、2~3階に認可保育園、1階に小児科や内科、病児保育に対応できるクリニックが入居します。知人のつてで事業者を見つけました」
4階は住戸として1DKが4戸、5階は地域の人が利用できる地域貢献型レンタルスペースとして運用する。


「収益物件を建てるのであれば、後世に自信を持って残せるような建物であってほしい。負の遺産となるのは避けるべきです。そのためには人々を魅了するデザインであるだけではなく、地震や災害に強く、地域に求められ、長く安定収入がえられる持続可能な事業でなければなりません。免震構造にすることは、サステナブルな建物にすることにつながります」
コロナ禍で、在宅時間が増え、室内の収納やデスクスペースを設置する動きもある。榎本氏が手掛けたプロジェクトに室内の階段スペースをうまく活用した例がある。

「このような工夫は後付けで、いくらでも加えることができる」と榎本氏。もっと根本的に構造的に、大地震に耐え売る設計であることが、これからの時代に生き残る賃貸住宅として欠くことのできないポイントだと力強く語った。
株式会社 寧広