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毎月得られる家賃収入に魅力を感じ、不動産投資を始めたいと考える人が多いだろう。しかし、売却することによって得られる売却益を考えておくことも忘れてはいけない。
売却益を多く得られれば手元資金が潤沢になり、次の投資資金に充てることも可能になる。一方、出口戦略に失敗すると、想定通りに家賃収入を得られていたとしても、売却損が出れば最終的に赤字になってしまうことも。
購入前からきちんと出口戦略を考えておくことで、賃貸経営をうまく進めることができると言っても過言ではないだろう。
では、出口戦略をどのように考えていけば良いのだろうか。今回は、実践大家コラムニストの「しげお@」さん、「海外駐在大家」さんに取材。実際に売却した物件に着目し、どのような経緯で売却を判断し、いくら儲かったのか、出口戦略に対する考えなどを聞いた。
出口戦略のポイントは、買主の視点に立つこと
まず、しげお@さんが売却した物件の事例を紹介する。しげお@さんは、投資歴4年で、一棟物件を3棟、戸建てと区分マンションを5戸保有し、総投資額は1億1000万円の不動産投資家だ。これまで4件の物件を売却した経験を持つしげお@さん。今回はそのうちの1件である、築古戸建てを売却した際のエピソードを聞いた。出口戦略についてどのように考えているのだろうか。
売却した物件情報
売却物件:神奈川県の戸建て
築年数:50年
保有期間:約1年半
購入価格:430万円 (リフォーム費用含め)
売却価格:650万円
賃料:7万8000円
―この物件を購入した経緯を教えてください
閑静な住宅街にある、70平米ほどの2階建てです。きちんとリフォームして募集し、相場通りの賃料で募集すればすぐに埋まるだろうと思い購入しました。しかし、以前の所有者が空き家のまま2~3年放置していたようで、水回りなどがかなり劣化していました。リフォームに50万円ほどかかったので、総投資額は430万円になります。
リフォームが終わってから募集を行い、2週間で入居者が決まりました。家賃は7万8000円です。
―なぜ売却することにしたのでしょうか
保有していた約1年半の間、退去も家賃滞納もなく安定していました。ただ、私が保有している物件のうち、この物件だけが遠方で、管理をするのが手間だったんです。また、この物件を売却してさらによい物件を買いたいとも思っていたので、その資金を得たかったというのもあります。
―物件はいくらで売れたのでしょうか?
650万円で、表面利回りは14.4%で売却しました。売却を不動産会社さんに依頼し、楽待などのネットに掲載してもらってから2週間くらいで買主が見つかりました。
総投資額が430万円ですので、差額は220万円です。そこから売却時の仲介手数料や短期譲渡税がかかりましたが、保有期間中の家賃収入と合わせると300万円近くの利益が出ました。
―売却するメリットとデメリットを教えてください
メリットは、未来に得られる家賃収入分を早期に回収できる点です。私はせっかちなので、短期譲渡税が発生したとしても、物件によってはすぐに利益を確定させたいと思っています。売却しなければ、その物件における利益は確定しませんから、それなら早く売りたいと思っています。また、売却すれば空室リスクや修繕リスクなど、保有することによって生じる損失をなくすことができる点もメリットです。
デメリットは、家賃収入が減ってしまう点です。当然売却してしまえば家賃収入がなくなってしまいますからね。でも物件を売却した2~3カ月後には、売却益を資金にして、また新しい物件を購入しているので、あまり気にしていません。
―出口戦略で気を付けていることがあれば教えてください
築年数が古くて実需としては売りづらい物件は、オーナーチェンジで売却することを意識しています。オーナーチェンジで売却活動をすれば、たとえ売れていなくても、家賃収入が入ってきますから焦る必要がありません。オーナーチェンジであれば、購入当初から家賃を得られるため、初心者の人も安心すると思います。
買主が購入後の不安を持たないような工夫をしています。例えばリフォームです。水回りなどが劣化し修繕をしないまま借主が使用すれば、いずれ故障してしまいます。そうなれば借主からクレームが来て、新しい買主が困ってしまいます。
また、オーナーチェンジを意識する以上、購入後の滞納トラブルの心配がないように、家賃保証会社との契約は必ずやっています。あとは連帯保証人も立てています。
できる限り買主が困ってしまわないように、初心者の買主でも安心できるように、私が保有している間にそのような不安を解消させるようにしています。
―売却時の利回りの基準を教えてください
オーナーチェンジの場合、中古戸建てだと表面利回り12%、区分マンションは10%くらいで売却を開始します。これは、楽待などのネットを見て、他のオーナーチェンジ物件の相場を見て判断しています。
ただ、多少の指値が入ったとしても柔軟に受け入れるようにはしています。指値をされて、1~2%くらい利回りが下がって売却したとしても、十分に利益が出ますから。むしろ早く利益を確定して次の物件を買いたいので、高く売ることよりも早く売ることを先決します。
-物件を損切りするケースもありますか?
今のところ、損切りしたことはありません。しかし、長期的に運営が大変になりそうな物件は、入居者が付いてすぐに売却したことはあります。
これまで4件売却したことがあるのですが、そのうちの1件は、賃貸の客付け募集をして、1カ月以上入居者がつかない物件でした。私の場合、これまで2週間くらいすれば入居者が見つかっていたのですが、その物件はなかなか見つからなかったんですよね。
何とか1カ月半で入居付けをすることはできましたが、今の入居者が退去すれば、空室期間が長くなり、家賃収入を得る機会損失が生じると思って売却することにしました。
―売却をする際は、どのような不動産会社に仲介を依頼しますか?
まず、物件を購入した不動産会社さんに依頼しています。物件を購入した後は、その不動産会社さんとのやり取りは完結してしまうので、疎遠になってしまうんですよね。直前でやり取りをした不動産会社とも、今後も良い物件情報を提供してもらえるようにするために、物件を購入した後「実は別の物件を売りたいんです」と相談しています。
1カ月くらいその不動産会社さんにだけ依頼して、それでも反応が悪ければもう1社くらいに仲介を依頼して、販売活動をしてもらいます。
あまり手広く数社に売却を依頼すると、市場に私の物件が出回ってしまって、「あれ、この物件、他の不動産会社も掲載していたな」となり、何となく価値が下がってしまうんですよね。不動産業界特有の「出回り物件」というやつですね。
◇
しげお@さんは、買主が初心者であることを想定し、購入以降多くの手間が発生しないよう、賃貸借契約などを入念に行っていた。また、接道義務を満たしていない再建築不可の物件や、擁壁の上に立つ物件など、売却の客付けが難しい物件はできるだけ購入しないようにしているという。
想定外の費用90万円が発生し、半年で利益確定
続いて、「海外駐在大家」さんの事例を見ていこう。海外駐在大家さんは、投資歴10年で、一棟物件6棟、戸建て2戸を保有しており、総投資額は4億円だ。これまで売却した物件は4件で、一棟物件を1棟、区分マンションを3戸売却している。
今回は、そんな海外駐在大家さんが初めて売却した区分マンションについて聞いた。
売却した物件情報
売却物件:埼玉県の区分マンション
築年数:9年
保有期間:約5カ月
購入価格:約1150万円
売却価格:約1370万円
賃料:7万円
―売却理由を教えてください
この物件は、老後に入った母の収入を確保するために、購入した物件です。母の名義で購入しています。駅から徒歩10分圏内と立地が良く、家賃は7万円でした。
しかし、サブリース契約を結んでいる物件だったため、そこから15%手数料が引かれていました。サブリース契約を外せばもっと収入を得られると思って契約解除の交渉などをしていましたが、解除するのに2~3カ月くらいかかりましたね…。結局、違約金を90万円支払って、サブリースを解除することができました。サブリース後は自主管理していました。
これで保有し続けられると思っていましたが、自主管理するには物件までの距離が遠く、保有するには手間を感じるようになってしまいました。
それなら「売ってしまうか」ということで、購入から数ヶ月しか経っていませんでしたが、売却にチャレンジしてみようと考えたんです。
―いくらで売れたのでしょうか?
1370万円です。購入価格との差額は約200万円ですが、サブリースの解除費用や売却時の仲介手数料、短期譲渡税などを差し引くと、80万円程度の利益でした。販売期間は1カ月とちょっとくらいです。
あまり儲けのない物件でしたが、遠方の自主管理が想定以上に大変だったので、早めに売却を判断して良かったなと思います。
この経験から、想定通りに進まなかったときに、売却を判断するのは大切だと学びました。
もちろん、我慢して家賃収入で利益を回収する考えもあると思います。しかし、この物件のサブリースの解除費用のように、大きな支出が発生すると利益を回収するのが1年延びてしまいます。
保有期間が延びる分、修繕や空室、管理運営のリスクが生じる可能性も高くなるため、想定外のことが発生した場合は売却するのも検討した方が良いと思います。

海外駐在大家さんが売却した区分マンションの外観。今後賃貸経営を継続していくにあたり、一度売却の経験をしておきたいと考えていたそう。この物件は購入前から売却をすることを想定していたのだという
―サブリースの解除費用を聞いたときに、解除しないという選択肢もあったと思います。
確かにその選択肢もありましたが、買主の視点に立つとサブリース契約がついている物件は嫌だろうなと思ったんです。サブリースがついていると、利回りが下がってしまいますからね。
あまり知識のない人に向けて売却する方法もあるとは思いますが…。それでは買主さんが可哀そうだと思って解除しようと思ったんです。それにサブリースの解除を学んでみることも面白そうだと思いましたし。
―売却するメリットとデメリットを教えてください
メリットは売却した分、手元資金が増えますから、次の物件を購入するための資金が手元を確保できる点です。また、自主管理の手間の煩わしさから解放されるという点も大きかったと思います。
一方デメリットは、売却した物件の家賃収入がなくなってしまうことです。副収入を確保するために不動産投資を始めたので、収入がなくなるのは少し不安でしたね。
―どのような物件を売却することが多いですか?
購入してから、想定外の支出が多く発生した場合は、売却しても良いかなと思います。例えば、今回の物件の場合ですとサブリースの解除費用です。購入当初はここまで費用が掛かると思っていませんでした。
もちろん、人によって価値観が異なりますし、物件によっても条件は異なりますから、一概にいくらの支出が発生したら売却するという明確な基準はありませんが。
また、想定以上に退去が多い物件も売却を検討します。出入りが激しいと原状回復が何度も発生しますし、空室により家賃収入も得られなくなります。
あと、管理会社とトラブルなく関係を終えるために、売却したこともありました。一度、地場で有名な管理会社に管理を依頼していましたが、管理がずさんで空室がなかなか埋まらなかったんですよね。管理会社を変更する選択肢もあると思いますが、変更すればその管理会社との関係は悪化します。
それに、地場に強い管理会社で良い物件情報が入ってくる会社だったので、関係は断ちたくありませんでした。その時は売却を選択しましたね。
―現在の市況は売りやすい状況だと思いますか?
物件価格は依然高騰しているため、売っても良い時期だと思います。しかし、売却して手元に現金ができたとしてもすぐに良い物件が買えるとも言えない状況です。そのため、特段の理由がないなら売り急ぐ必要はないのかなと思います。
ただし、自分の物件はいくらで売れるのかを、定期的に確認することも大切だと思います。私の場合は、ネット掲載されている周辺の物件を見ながら、「自分の物件は、この物件よりも築年数が少し古いから、これくらいで売れるだろう」と想定するようにしています。
―物件を売却する際は、実際にどのように動けばよいでしょうか?
本格的に売却するとしたら、複数の不動産会社に売却を依頼するのが良いと思います。
今回紹介した物件は、販売当初、付き合いのある業者に1300万円で仲介を依頼していましたが、1カ月経ってもなかなか決まりませんでした。おそらく、その不動産会社があまり収益物件の売買が得意じゃなかったのかもしれません。
その後、楽待の査定サービスを使って複数の会社に売却活動を依頼したんですが、なんとそのうちの1社が販売を依頼してから1週間で売却してくれたんです。

査定サービスの検索画面。売却したい物件情報を入力すると、売却を受け付けている不動産会社が表示される
まずは、付き合いのある不動産会社さんに依頼して頑張ってもらうのも良いと思います。物件も出回ることなく、契約もトラブルなく進めることができると思うので。
ただ、その不動産会社さんが収益物件の売買が得意じゃないことも考えられますから、いくつかの不動産会社に売却を依頼するのが良いと思います。
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今回紹介した2人の事例を見ると、売却することによって得られる家賃収入が減ってしまうデメリットがある一方で、次の物件を購入するための手元資金を確保できる点にメリットを感じていた。売却することによって、将来的に得られる利益を早期に回収することで、より規模の大きな物件の購入を狙うことができる。
「いつまでにこれくらいの手残りが欲しい」という目標はあるかもしれないが、その道程で「どの物件を売却し、どの程度の売却益を得るのか」などといった出口戦略を含めた、賃貸経営の計画を考えていくことも重要と言えるだろう。