不動産投資家は「自分は消費者ではない」ことを認識せよ 不動産投資家に消費者契約法が適用されない理由とは

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「消費者契約法」という法律をご存じでしょうか。

事業者と一般の消費者を比較すると、情報の量と質、交渉力では消費者よりも事業者のほうが勝っていることが多いと思います。消費者契約法は、事業者が消費者の利益を不当に害することがないよう、不当な契約から消費者を守ることを目的の1つとしています。

では、不動産投資で考えた場合、個人の不動産投資家は、消費者と見なされ、消費者契約法が適用されるのでしょうか。もし適用されるのであれば、何らかのトラブルが発生した際の後ろ盾となることも考えられます。実際の判例などから、個人の不動産投資家が消費者として認識されるのかどうか、見ていきましょう。

消費者契約法とは

消費者契約法は、消費者と事業者との間で締結される契約に適用されます。例えば、訪問販売でセールスマンに「持病に効果がある」と言われ、錠剤の健康食品を購入したとします。言われた通りに飲んでも全く効果がなく、医者にも「持病には効かない」と言われた場合、セールスマンが「持病に効く」と重要事項について嘘を言ったことになります。勧誘時の話や資料などで証明し、消費者契約法が適用されれば、契約は無効になります。

このように、事業者と消費者との契約に消費者契約法が適用された場合、「不実告知」(事業者が消費者に、重要事項について虚偽の情報を提供した)や「不利益事実の不告知」(事業者が消費者の不利益となる事実を告知しなかった)に基づいて締結された契約を取り消すことができます。

不動産で言えば、高利率の遅延損害金を定めた契約条項や、賃借人に対する敷金の返還の際、あまりに高額の敷引き金を設定している「敷引き特約」などは、消費者契約法が適用されて無効となります。

「消費者」と「事業者」の定義

では、そもそも「事業者」と「消費者」は、それぞれどのような人のことを指すのでしょうか。定義を考えてみます。

まず「事業者」は、法人その他の団体、およびいわゆる個人事業主のことを指しています。例えば不動産会社などを想像してもらえれば分かりやすいでしょう。

それに対して「消費者」をどのように定義づけるかはなかなか厄介で、過去の裁判でも何度も争われたことがあります。消費者契約法第2条第1項には、消費者は「個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)」と定義されています。たとえ個人であっても、事業としての契約の当事者となった場合は、消費者契約法における「消費者」ではなくなる、ということです。

ここで示されている「事業」とは、「一定の目的をもって同種の行為を反復継続して行う行為」、そして、「自己の危険と計算とで独立して行われる行為」と消費者庁による逐条解説で示されています。自分の名義で契約し、収支結果も自分に帰属する場合、と考えると良いでしょう。

不動産投資でいえば、投資規模拡大などを目的に、繰り返し物件を購入すること、また、投資用不動産を自分名義で購入して、売り上げや経費も自分名義に帰属すること、と言うことができます。

このような定義からすると、個人の不動産投資家が行う不動産投資や不動産賃貸業は、一般的に消費者契約法における「事業」に含まれると捉えることができます。

また、反復継続といっても、必ずしも過去に経験している必要はなく、一定期間に反復継続する予定があれば、初めての行為であっても事業に該当します。つまり、初めての不動産購入であっても、今後継続して不動産投資を続けていく予定がある場合、事業として認定されるということです。

消費者契約法が適用された裁判事例も

消費者の定義を踏まえ、過去の判例を見てみると、多くの裁判例では個人の不動産投資家は消費者として判断されておらず、消費者契約法が適用されていません。

それらの裁判例では、どれだけの物件を保有しているか、過去に不動産投資の経験があるかといった事情を考慮しているようですが、たとえ初めての投資用不動産の購入であっても、理屈上は事業に該当し、消費者ではないと判断されます。

つまり、個人の不動産投資家が投資用不動産を購入し、その後に何らかのトラブルが発生した場合でも、消費者契約法に基づき契約の取り消しができる可能性は低いということです。

しかし、中には個人の不動産投資家が消費者として認定された判例もあります。2事例を紹介します。

平成24年3月27日東京地方裁判所判決

とある不動産会社が個人の方(以下、X1とします)に、投資用の区分マンション2戸を販売した事例。その売買契約時に、不動産の客観的な市場価格を提示していない、非現実的なシミュレーションを伝えている、お小遣い程度の支出で不動産を維持できると誤信させたなど不誠実な勧誘を行ったことが、不実告知と不利益事実の不告知にあたるとされて消費者契約法が適用された。裁判所は不動産の売買契約を取り消したうえで、不動産会社がX1に対して、売買代金を返還(ただし、Xが受領した家賃分は控除)するという判決を下した。

この裁判では、原告であるX1は会社員であり、投資用不動産の購入は今回が初めてで、投資初心者という状況でした。このような状況からすると、不動産会社の不誠実な行為も相まって、X1が不動産投資を行ったとも判断でき、X1が消費者契約法における消費者として保護される必要性は高かったものと言えます。

平成31年1月31日東京地方裁判所判決

不動産会社が個人の方(以下、X2とします)に、投資用区分マンションを2戸販売した判例。販売時、不動産会社はX2に対して、「不動産投資の果たす役割として、年金と生命保険代わりになる」と説明していた。また、公務員であるX2は「勤務先から副業を禁止されている」と不動産会社に伝えたところ、不動産会社は「不動産投資は副業に当たらない」と説明し、物件購入の勧誘を行った。

上記の裁判例では、X2が自身の仕事として不動産賃貸業をするために不動産を購入したというよりは、年金や生命保険代わりといった側面や副業に当たらないという認識のもとで不動産を購入したと考えられます。こうした理由から、裁判所はX2を消費者契約法における消費者と判断したようです。

ただし、この判決では、不動産会社に不実告知や不利益事実の不告知といった事実はなかったため、消費者契約法に基づくX2と不動産会社の売買契約の取り消しは認められませんでした。

 不動産投資経験者は消費者ではない

個人の不動産投資家が消費者契約法における消費者に該当するかの判断は、非常に難しいところです。裁判例を見るところ、不動産投資をする個人の方の事情や保護されるべき状況があるかといった部分が重要であると考えられます。

個人の事情では、例えば、過去に不動産投資の経験があるか(初心者か否か)、今後も継続的に不動産投資や不動産賃貸業をしていく意思があるか。また、不動産投資に対する認識(年金や生命保険に代わるもの程度の認識か、副業に該当すると理解していたか)といった事情を考慮することになります。

さらに、最初に述べた通り、消費者契約法は事業者から消費者の権利を守ることが目的です。そのため、消費者契約法が示すような強い事業者、弱い個人との間の契約という状況になる場合、保護されるべき状況と判断され、消費者契約法の適用はされやすくなることも考えられます。

一方で、ある程度の期間、不動産投資をすでに行い、不動産による収入で生計を立てている個人の不動産投資家は、消費者契約法上の消費者と評価される可能性は極めて低いと考えるべきでしょう。

今回は、個人の不動産投資家に消費者契約法は適用されるのかということについて見てきました。改めて要点を以下にまとめます。

・不動産投資家は多くの場合事業者とみなされるため、消費者契約法が適用されない可能性が高い

・不動産投資家が事業者と見なされるのは、投資規模拡大などを目的に繰り返し物件を購入した場合、あるいは不動産を自分名義で購入し、売り上げや経費も自分に帰属する場合

・初めて投資用不動産を購入した場合でも、一定期間に続けて物件を購入する予定がある場合、事業者として認識される可能性が高い

事情によっては、不動産投資に関しても消費者契約法が適用される可能性はありますが、それは例外的です。多くの不動産投資家が行う契約には、消費者契約法は適用されないと考えるほうが望ましいと思います。

不動産投資をするオーナーとしては、契約の際に相手となる不動産会社の説明を鵜呑みにせず、少しでも疑問点があれば明確な回答を求めること。さらに、自身でも調査して慎重に購入判断するなど、できる限りトラブルに発展しないように注意したほうが良いと思います。

                                                 株式会社寧広