不動産投資を通じて脱炭素に貢献する時代へ~エコ住宅の海外動向とESG不動産投資~グローバル都市不動産研究所 第13弾(都市政策の専門家 市川宏雄氏監修)New 調査(不動産投資)/その他 ニュース

投資用不動産を扱う株式会社グローバル・リンク・マネジメントは、(1)東京という都市を分析しその魅力を世界に向けて発信すること、(2)不動産を核とした新しいサービスの開発、等を目的に、明治大学名誉教授 市川宏雄 氏を所長に迎え、「グローバル都市不動産研究所(以下、同研究所)」を2019年1月1日に設立した。

過去のレポート一覧

同研究所では、調査・研究の第13弾として、カーボンニュートラルに向けた住宅・建築物の国内外の対応や、ESG投資ニーズについて分析した。

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【01】2050年カーボンニュートラルに向けた住宅・建築物の対応

日本のCO2排出量は家庭部門、業務他部門で大きく増加
大手デベロッパーの分譲マンション、賃貸住宅などの集合住宅でもZEH化が進む

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■脱炭素は待ったなし

2020年10月の菅前総理大臣の「2050年カーボンニュートラル宣言」を口火に、政府は脱炭素社会に向けて大きく舵を切った。2021年5月改正の地球温暖化対策推進法でも「2050年カーボンニュートラル宣言」を基本理念として明確に位置づけられており、脱炭素に向けた取り組みや投資を加速するとしている。

英国・グラスゴーで開催された第26回国連気候変動枠組条約締約国会合(COP26)では、「パリ協定」で合意した「世界の平均気温の上昇を、産業革命前の水準からプラス2度をはるかに下回る水準にし、1.5度に抑える努力を追求する」という長期目標を再確認し、2030年温室効果ガス(GHG)排出目標の再検討や強化を各国に要請する成果文書「グラスゴー気候合意」を採択し閉幕した(2021年11月13日)。

COP26の場で岸田総理大臣も、「2030年度に、温室効果ガスを2013年度比で46パーセント削減することを目指し、さらに50パーセントの高みに向けて挑戦を続けていく」との政府方針を示し、気候変動という人類共通の課題に総力を挙げて取り組む決意を表明している」

いまや脱炭素化は世界的な潮流であり、日本においても待ったなしの対応が求められている。

■住宅や建築物が脱炭素推進のカギ

日本のCO2排出量の割合をみると、家庭部門(住まい)は15.5%、業務他部門(オフィスや商業施設等)は18.8%と、合わせて3割を超えている。1990-2019年度の排出量増減率をみると、産業部門は23.7%減と低下したのに対し、家庭部門、業務他部門はむしろ大きく増加した【図1】。

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これらの部門(とりわけ家庭部門の住まい)では、CO2排出量のうち、冷暖房や給湯、照明などの用途が多くを占め、省エネルギー技術の導入による削減余地が大きいと言われている。そのため、住宅や建築物の断熱性能を高めつつ、高効率な家電・電気設備やLED照明などの導入でエネルギー消費量削減の徹底化を図る一方で、太陽光発電などの再生可能エネルギーを活用した創エネルギーによって、脱炭素化を図ることが必須となっている。

■日本の方針はZEH・ZEBの強化

「2050年カーボンニュートラル宣言」を受け、2021年8月にとりまとめられた「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方」(国土交通省・経済産業省・環境省3省連携)では、2050年(長期)及び2030年(中期)に目指すべき住宅・建築物の姿として、次の目標を掲げた。

2050年:ストック平均でZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能が確保され、その導入が合理的な住宅・建築物において太陽光発電設備等の再生可能エネルギーの導入が一般的となること

2030年:新築される住宅・建築物についてはZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能が確保され、新築戸建住宅の6割において太陽光発電設備が導入されていること

そして、このあるべき姿に向けた取組として次の方針を示している。

・2025年度に住宅を含めた省エネ基準への適合義務化
・遅くとも2030年までに省エネ基準をZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能に引き上げ・適合義務化
・将来における設置義務化も選択肢の一つとして、太陽光発電設備の設置促進の取組を進める

ここで、少し聞き慣れないZEH、ZEBについて説明すると、ZEH(ゼッチ)とは「Net Zero Energy House=ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」の略語で、「外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅」と定義されている【図2】。

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商業系ビルでZEHに相当するものがZEB(ゼブ; 「Net Zero Energy Building=ネット・ゼロ・エネルギー・ビル」の略語)であり、また、ZEHの集合住宅版として、ZEH-M(ゼッチ・マンション)の基準も設けられている【図3】(※)。

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当初、ZEHは、ハウスメーカーの戸建注文住宅を中心に普及してきたが、最近では大手デベロッパーが手掛ける分譲マンション、賃貸住宅などの集合住宅でもZEH化が始まっている。

ZEH化された住宅は、高断熱化や太陽光発電等の導入などによって建設コストは上がるが、居住者にとって、①夏は涼しく冬は暖かい快適な住環境を実現できる、②省エネルギー化や創エネルギー化の活用によって光熱費を抑えられる、③太陽光発電の設置によって災害による停電時でも安心した生活を送ることができる、などのメリットがあり、脱炭素社会の実現に向けてその普及が期待されている。

※ 100%以上の一次エネルギー消費量削減を満たす住宅、建築物をそれぞれ「ZEH」、「ZEB」と定義しているが、その他に高性能なZEHとして「ZEH+」、「次世代ZEH+」、省エネ率等を緩和した「Nearly ZEH」、「ZEH Oriented」、「Nearly ZEB」、「ZEB Ready」、「ZEB Oriented」などの定義も設定されている。また、さらに省CO2化を進めた先導的な基準として、LCCM住宅(使用段階のCO2排出量に加え資材製造や建設段階のCO2排出量の削減、長寿命化によりライフサイクル全体を通じたCO2排出量をマイナスにする住宅)がある。

【02】日本の先を行く海外諸国の取り組み

英国を代表するエコ建築「BedZED」、
米国最大のエコ住宅地「ウエストビレッジ」

■ZEH,ZEBをけん引する英国

海外諸国では、住宅や建築物のゼロ・エネルギー化に向けた対策が加速化している。
世界に先駆けて地球温暖化対策に取り組む英国では、2019年6月に、それまでの2050年GHG排出量80%削減目標を見直し、2050年ネット・ゼロを新たな目標とする改正気候変動法(Climate Change Act)を成立させた。COP26を前にボリス・ジョンソン首相は、その実現に向けて大胆な政策・投資を示した「ネット・ゼロ戦略」を発表している。

英国では、すでに「2016年までにすべての新築住宅をゼロ・エネルギー化する」(2006年)、「2019年までに住宅以外のすべての新築建築物をゼロ・エネルギー化する」(2008年)という大きな政府目標を掲げ、ZEH化、ZEB化を推進してきた。
その先進事例が、2002年にロンドン南部ハックブリッジに完成した「Beddington Zero Energy Development 」(BedZED)だ。【図4】

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このプロジェクトは82戸の住宅とオフィスなどで構成されたイギリス最初のゼロ・エネルギーのエコビレッジで、現地で作られた再生可能エネルギー(ソーラーパネルと木材チップガス化装置のコージェネレーションシステム)のみを使用するように設計されている(現在、地域暖房はバイオマスペレットボイラーに切り替えられている)。

建物は断熱効果の高い建築材料、扉、三重ガラスを使用し、住宅は太陽光を最大限利用するために南側に大きな窓を設け、オフィスは自然光が入る天窓を設置して照明器具を極力減らしている。ほかにも、屋上緑化、再生水や雨水利用、廃棄物リサイクルシステム、電気自動車のカーシェアやサイクリングの奨励など、持続可能な暮らし方が実現されている。

■パリ協定復帰の米国は規制強化

米国も、バイデン大統領就任後にパリ協定に復帰し、2050年GHG排出ネット・ゼロを表明した。2030年までにすべての新築商業用建築物のネット・ゼロ化、2035年までに国内の建築ストックからの排出量50%削減を中間目標に位置づけた。

なかでも先進的な環境政策の導入で知られるカリフォルニア州は、2045年カーボンニュートラルを目指し、すでに2008年に新築住宅は2020年までに、新築商業用建築物は2030年までにゼロ・ネット・エネルギー(ZNE)にするという目標を掲げている。

2019年の建築物省エネ基準の更新では、壁や窓の高断熱機能化に加え、2020年1月から新築戸建住宅と低層集合住宅(3階建てまで)に太陽光発電導入を義務付けました。次回の2022年更新ではガス暖房廃止を目指し、オール電化住宅への優遇策を盛り込むことが検討されている。

その先進事例のひとつが、カリフォルニア州立大学デイビス校に隣接したキャンパスハウジング「ウエストビレッジ」だ。

米国最大の「ネット・ゼロ・エネルギーコミュニティ」で知られるこの住宅地は、10メガワットを超える太陽光発電システムを備え、すべて完成すると約83haの広さ、3,000人以上の学生と教授、大学関係者の居住が計画されている。アパートには、高効率エアコン、熱交換型換気システム、高効率給湯器、LED照明、高断熱サッシなどの機能に加え、自然光を多く取り入れられる大型窓が取り付けられ、これらの省エネ施策とメガソーラーによる発電を組み合わせて、ゼロ・エネルギーを目指している【図5】。

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■EUは削減目標を引き上げ

欧州連合(EU)も2021年4月に、2030年GHG排出目標を40%削減から「少なくとも55%減」に引き上げることで暫定合意している。各国で省エネ基準や規制を今まで以上に厳格にしていく例がみられ、例えばフランスやドイツでは化石燃料由来の暖房器具を実質禁止とする見通しを立て、既存住宅のエネルギー効率改善を進める計画としている。

【03】?不動産投資もESGを重視する時代へ

アジア太平洋、北米及び欧州の不動産投資家93%がESGを重視
J-REITではグリーンボンドとサスティナビリティボンドの発行が急激に増加

■世界ではすでに投資判断材料に

現在、カーボンニュートラルへの対応は、“経済成長の制約やコスト”と考える時代は終わり、“成長の機会”ととらえる時代に変わってきている。いまや120を超える国と地域が「2050年カーボンニュートラル」実現に向けて、脱炭素化に向けた大胆な政策や投資策を打ち出している。

国連の「責任投資原則」(RPI=Principles for Responsible Investment)の提唱を受け、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)を重視した経営をおこなう企業へ投資する「ESG投資」は世界で3,000兆円にも及ぶとされ、環境関連の投資はグローバル市場で大きな存在となっている。

国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)不動産ワーキンググループの調査では、アジア太平洋、北米及び欧州の不動産投資家のうち93%が投資決定の判断にESG基準を取り入れ、とくにエネルギーや温室効果ガス排出、水などの環境性能の課題を重視していると回答した(UNEP FI’s Property Working Group et al. “Global ESG Real Estate Survey Results”, 2019)。

こうした投資行動の背景には、ESGを重視した不動産投資は環境・社会の持続可能性に貢献するとの考えとともに、中長期的には不動産価値の向上や収益拡大につながり得るとの認識があるとされている。

■日本でもESG投資ニーズが顕在化

J-REITにおいても、グリーンボンド(環境改善事業向けの債権)による資金調達が目立つようになった。グリーンボンドとは、ESGの「E」(環境)に配慮した資金調達方法のひとつ。グリーンボンドとサステナビリティボンド(環境・社会の持続可能性に貢献する事業への投資)を合わせた2021年の国内発行実績は107件、2.3兆円に達し、国内で急速に伸びつつある【図6】。

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同研究所が2021年3月に国内の不動産投資家400名に対し行った「ESGに関する意識調査」では、約83%が「今後の不動産投資でESGを意識する」と回答している。これから日本でも、ESG、とりわけ環境を重視した不動産投資への動きが高まり、そうした物件にますます注目が集まっていくことが予測される。

【04】都市政策の専門家 市川宏雄所長による分析結果統括

地球温暖化への対応が国際的な最重要事項に
日本でも不動産投資を通じて脱炭素に貢献する時代へ

脱炭素化が、なぜ世界的な潮流となっているのか。それは有名な「パリ協定」に象徴されるように、地球温暖化への対応が愁眉の急となっているからだ。日本でも暖冬になったり、突然の豪雨が洪水被害を生んでいる。欧米はより深刻で、夏に熱波が多くの人命を奪い、山火事も頻発している。CO2排出量の削減は国際的な最重要事項なのだ。

不動産の分野でも、国土交通省、経済産業省、環境省の3省が連携して、「2050年カーボンニュートラル宣言」を受けた「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方」を2021年8月にとりまとめた。住宅や建築物の断熱性能を高め、高効率な家電・電気設備やLED照明などを導入してエネルギー消費量を削減させ、また、太陽光発電などの再生可能エネルギーで脱炭素化を図ることなどが現実の課題となったのだ。住宅におけるZEH(ゼッチ)「Net Zero Energy House=ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」や商業系ビルのZEB(ゼブ)「Net Zero Energy Building=ネット・ゼロ・エネルギー・ビル」がこれからの常識。英国を代表するエコ建築「BedZED」が登場し、米国最大のエコ住宅地「ウエストビレッジ」がカリフォルニア州立大学デイビス校に隣接して建設された。

持続可能な世界の実現のために、企業の長期的成長に重要な環境(E)・社会(S)・カバナンス(G)の3つの頭文字をとったESGが不可欠になっている。アジア太平洋、北米及び欧州の不動産投資家の90%以上がESGを重視するようになっている。このことは不動産投資のデータに表れており、J-REITではグリーンボンドとサスティナビリティボンドの発行が急激に増加している。日本でも世界の流れに追随を始めた。脱炭素社会の実現のために環境コントロールとその実行のための管理体制の構築や企業内部の統治が不可欠となり、不動産投資を通じて脱炭素に貢献する時代へと舵が切られたのだ。

                                               株式会社寧広