メガバンクも続々対応、LGBTカップル向け住宅ローンの現在

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「LGBT」という言葉は、今や当たり前になってきました。

念のために確認しておくと、LGBTは、「レズビアン(女性同性愛者)」、「ゲイ(男性同性愛者)」、「バイセクシュアル(両性愛者)」、「トランスジェンダー(こころの性と身体の性が一致していない個人)」の頭文字をとった、性的少数者の総称です。ここにさらに、性的指向や性自認が定まっていない人である「クエスチョニング・クイア」を加えて「LTBGQ」と呼ばれることも多くなってきています。

ただ、LGBTが認知されてきたといっても、当人たちが実際に生活していくのに当たって、いまだ困難が伴うことに代わりはありません。これは日本だけではないのでしょう。

余談ですが、筆者は2018年の韓国のブラックコメディ映画である『完璧な他人』を年始に視聴しました。あまり韓国映画は見る機会がなかったのですが、脚本も俳優さん達の演技も非常に素晴らしい映画でした。この映画でも、LGBTの方の生き辛さが描かれています。日本だけには限らないということでしょう。

このLGBTについては、徐々に認知され、社会が認めるようになってきました。これにより潜在的なニーズが顕在化し、それと共に問題も発生してくるようになりました。その1つが住宅ローンです。現在は主要な金融機関で、LGBT向けの住宅ローンが提供されはじめていますが、まだ課題は残されています。今回は、LGBTの住宅ローン事情について確認していきたいと思います。

LGBT向けの住宅ローンがつくられた背景

LGBT向けの住宅ローンについて紹介する前に、金融機関がなぜ、LGBT向けの住宅ローンを提供することになったのかということから説明していきましょう。キーワードは「SDGs(持続可能な開発目標)」です。

銀行をはじめとした金融機関は、SDGsを意識して経営を行っています。SDGsを無視しては、日本社会のみならず世界の中で生き残っていけないとの危機感が、背景にあります。ただ、このSDGsには、LGBTという表現はどこにも明記されていません。

SDGsは、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の頭文字を取ったもの。持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成される

一方で、SDGsの5番目の目標である「ジェンダー平等を実現しよう」には、当然にLGBTの問題も含まれると解釈されています。この目標は、ジェンダーに関する差別の撤廃や、暴力の排除を目指しているからです。また、10番目の目標である「人や国の不平等をなくそう」や、16番目の目標である「平和と公正をすべての人に」も、LGBTの問題に関係しています。

そもそもSDGsは「誰一人取り残さない」という大きなテーマを持っています。したがって、金融機関もLGBTを無視した経営はできないということになります。

さらには、SDGsの影響などもあり、いわゆる「同性パートナーシップ制度」が日本においても広がってきています。同性パートナーシップ制度とは「婚姻関係を結べない戸籍上同性のカップルに対して、各自治体が同性同士のカップルを婚姻に相当する関係と認めて証明書を発行する制度」です。2015年11月に東京都渋谷区と世田谷区で施行され、現在では約130の自治体で施行されています。全国の総人口の4割以上の自治体人口をカバーするに至り、全国的な広がりを見せてきています。

このようにLGBTが認知されてきた環境下だからこそ、銀行はLGBT住宅ローンについて真剣に商品リリースを検討するようになってきました。

生活の三大要素である衣食住のうち、「衣」と「食」については、LGBTだからといって法的・金銭的な問題が発生することはあまりないでしょう。しかし、「住」については、法的に婚姻関係が認められていないLGBTの方にとっては問題があります。賃貸住宅に住む時にはオーナーがLGBTカップルの入居を認めない可能性がありますし、居住用住宅を購入する時には「住宅ローン」の問題があります。

このような背景があるからこそ、SDGsの取り組みに積極的な金融機関においては、LGBTの方々に向けた住宅ローンを相次いで提供するようになってきたのです。

収入合算やペアローンが使えない

前述の同性パートナーシップ制度には、「公営住宅に2人で入居できるようになる」、「民間の保険、金融、通信などの家族向けサービスが利用できるようになる」といったメリットがある一方、法的な効力はありません。そもそも同性パートナーシップ制度は地方自治体の制度であり、日本国全体の制度ではありません。

こうした状況を踏まえ、LGBT向けの住宅ローンが存在しない場合、LGBTのカップルが、どのような問題に直面することになるのかを想定してみましょう。

まずLGBTのカップルが住宅を購入しようと考えた場合、異性同士のカップルと同様に住宅ローンを組むことが一般的だと思います。しかし、LGBTのカップルは、法的には他人でしかありません。そのため、どちらか一方のパートナーが住宅ローンを組み、もう片方が、返済の一部を負担もしくはサポートするケースが大半を占めているとされています。

しかしながら、近時は特に東京圏においてマンション価格の上昇が激しくなっています。一人だけの収入では、望む住宅を購入できる水準の住宅ローンが組めないことも予想されます。

一方、異性同士のカップル(共働き夫婦)は、住宅ローンの借入額を増やすために「収入合算(連帯債務型・連帯保証型)」や「ペアローン」を活用しています。

まず「収入合算」の住宅ローンのうち連帯債務型は、どちらかが主債務者、もう1人が連帯債務者となり、それぞれが1つの住宅ローンの債務を同等に負い、協力して返済していく仕組みです。似たものとして連帯保証型がありますが、これは2人のどちらか一方がローン契約をして、残りの1人がその連帯保証人となる仕組みです。

また「ペアローン」は夫婦がそれぞれ住宅ローンを組み、お互いが相手のローンの連帯保証人となる方法です。

このようなローンについて銀行は、かつては法的に認められた夫婦にのみ提供していました。LGBTカップルでは、収入合算やペアローンは利用できなかったのです。しかし、SDGsの要請などを踏まえ、銀行は連帯債務型の配偶者に「同性パートナー」を加えることなどで、従前の住宅ローンをLGBT対応に拡大していることが一般的です。

LGBTカップルのうち、1人の年収だけでは借入希望額に届かない場合、1人が債務者、共働きをしているもう1人が連帯債務者となり、パートナー双方の収入を合計することで借入額を増やすことができます。

最初に、LGBTカップル向けに住宅ローンの利用条件を緩和したのはメガバンクの一角、みずほ銀行でした。みずほ銀行は、2017年6月に、LGBTカップルの利用を念頭に置き、住宅ローン商品の利用条件を緩和しています。邦銀の中ではじめて、収入合算やペアローンにおける配偶者の定義に「同性のパートナー」を含め、LGBTのカップルも住宅ローンを利用できるようになりました。

公式サイトで確認する限り、現在は、三井住友銀行、ソニー銀行、住信SBIネット銀行、三井住友信託銀行、地方銀行の一部などで、LGBT住宅ローンの取り扱いがなされています。

LGBTカップルにおける住宅ローンの留意点

LGBTカップルが住宅ローンを組む際には留意点もあります。ここでは分かりやすいように、LGBTカップル向けの住宅ローンではなく、LGBTカップルの一方だけが債務者となっている住宅ローンの場合で考えてみます。

LGBTカップルの住宅ローンにおける問題点は、関係解消(いわゆる離婚)時に顕在化します。法律婚の場合は、離婚にあたって財産分与を求めることができますが、LGBTカップルの場合は法的な婚姻関係にないため、相手に財産分与を求めることは難しいのが実情です。

財産分与は、離婚をした者の一方が他方に対して財産の分与を請求することができる制度です。財産分与は、1)夫婦が共同生活を送る中で形成した財産の公平な分配、2)離婚後の生活保障、3)離婚の原因を作ったことへの損害賠償の性質がある、と解されており、特に1)が基本であると考えられています。

例えばLGBTパートナーの1人が主に働き、もう1人が働かずに家事を担っており、LGBTパートナーの一方(前者)だけが住宅ローンの債務者(=所有者)になっていた場合、家事を担っていた側のパートナーには財産分与は保障されていません。実質的には法律婚のカップルと同じように生活・家計を共に営んできているにもかかわらず、です。

住宅を所有している側のパートナーのみが住宅に関する権利を有しており、もう一方のパートナーは住宅に対する権利がないのです。LGBTのカップルは、いわゆる同棲カップルと同じ状態と言えます。

また、LGBTのカップルの場合、パートナーの死亡時にも大きな問題が発生します。

住宅ローンの返済途中で「住宅ローンの債務者」であるパートナーが死去した場合は、団体信用保険に加入していれば残債の返済は免除されます。ところが、LGBTのカップルの場合、残されたパートナーは法定相続人ではありません。法定相続人である血のつながった遺族が相続権を主張した場合、残されたパートナーが、自宅に住めなくなるおそれがあります。LGBTのカップルの場合には、遺言書がないと、住宅の所有権や財産は、親族に相続されてしまうのです。

このような問題は、すべてLGBTカップルが法的な婚姻関係として認められていないことに起因します。

連帯債務型やペアローンの住宅ローンの場合でも、相手の持ち分については、上記のような問題が発生するのです。例えば、マンションを共有で持っていた場合には、関係を解消すると自らが住み続けたかったとしても、相手は売却しての換価を主張することもあり得ます。また、パートナーが亡くなり、パートナーの持ち分を血縁のある遺族が相続した場合には、その遺族が同様にマンションを売却したいと動く可能性は高いでしょう。LGBTが住宅ローンを借りて家を買うということは、なかなかに難しい問題を抱えているのです。

本来、銀行はこのような揉め事が起きそうな住宅ローンの提供には消極的です。しかし、SDGsの観点から、LGBTカップル向けの住宅ローンを提供しています。LGBTカップルの生活を充実させていくためには、LGBTカップルの権利を、現在の異性カップルにおける婚姻と同等に認めることが必須となります。特に「住」の世界では、これが重要な要素なのです。

LGBTカップルが、異性同士のパワーカップル(夫婦)のように住宅ローンを組むことができるようになれば、新たな購買層が増加することは間違いありません。そこに新たなビジネスが広がるならば、それはLGBTカップルのみならず、金融機関にとっても良いことなのではないでしょうか。

                                                 株式会社寧広