メインターゲットを富裕層に変えたい、スルガ銀行の思惑

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女性向けシェアハウス「かぼちゃの馬車」をめぐる不正融資問題について、オーナーに対し「代物弁済」を行うなど早期解決を目指してきたスルガ銀行。しかしその後、一般の投資用不動産ローン(アパートローン)を利用したアパート・マンションオーナーらが「スルガ銀行の不正融資により被害を受けた」とし、救済措置を求める動きも出ています。

こうした中でスルガ銀行は、貸出のメインターゲットを富裕層に変更しようとしています。この方針にはどのような思惑があるのでしょうか。スルガ銀行を取り巻く現在の環境、そしてこれまでに起きたことを踏まえ、同行の戦略について考察していきたいと思います。

スルガ銀行の現状

まず、現在のスルガ銀行がどのような状況に置かれているのかを整理しておきます。

今年の8月末、スルガ銀行のアパートローン債務者の代理人弁護団が、スルガ銀行に賠償請求したと表明しました。請求者は336人、総額は約805億円とされています。弁護団は、返済能力以上の融資や、実勢価格を超える物件購入などで請求者が損失を受けたと主張しているようです。

一方スルガ銀行は、アパートローンの債務者についてはシェアハウス問題とは状況が異なるとして一括での対応を行うことはせず、個別での解決を模索する姿勢を示しています。

スルガ銀行本店

一般のアパートローン債務者による請求の行方は、スルガ銀行の企業存続に大きな影響を及ぼす可能性があります。

2021年6月末時点におけるシェアハウス向けのローン残高は1059億円ですが、一棟収益ローン(いわゆる一般のアパートローン、ただし区分所有の投資用マンションローン除く)の残高は1兆737億円と、シェアハウス向けローンの約10倍の規模です。スルガ銀行は業績予想を上方修整しましたが、スルガ銀行の純資産は2021年6月末時点で2879億円ですから、この一棟収益ローンで大幅な損失が出れば、同行の存続が危ぶまれる事態にもなりかねないのです。

ターゲットを「富裕層」に転換

このような現状を踏まえつつ、これからスルガ銀行がどのような戦略を取っていくのかを見ていきましょう。

スルガ銀行は、一棟収益ローンについて「2019年9月末時点で約1兆2000億円の残高があり、その70%程度の約8500億円が要注意先債権であった」と過去に説明しています。これはつまり、これまでは返済に少し懸念のある貸出を中心に行い、その代わりに高い金利を受け取り、結果としては高収益を得ていたということです。

一方、2019年11月に発表した中期経営計画では、「投資用不動産ローンはターゲットを変更し『質』を転換」すると表明しています。リスクを抑えた新規ローンを積み上げるとしており、ミドルリスク・ミドルリターンの収益構造へ転換する計画です。

具体的には、投資用不動産ローンにおけるターゲット顧客について、今までメインターゲット層としていた「マス層(金融資産保有額3000万円未満)」「アッパーマス層(同3000~5000万円)」「準富裕層(同5000万~1億円)」、中でもマス層の中~上位層とアッパーマス層の中~下位層を狙っていました。

これまでスルガ銀行は、マス層の中~上位層とアッパーマス層の中~下位層の顧客をターゲットとしていた(出典:『スルガ銀行中期経営計画 “Re:Start 2025”』)

しかし上図の通り、今後は今までのメインターゲット層にも対応しながら、富裕層(同1億5億円)をターゲットとしていくことを表明しています。スルガ銀行は、このターゲット層の変更により、ミドルリスク・ミドルリターンのビジネスモデルを構築する予定なのです。

かつてのスルガ銀行の強みは、どのような属性の人であっても対応してきたこと、他銀行が認めない物件(築年の古いもの含む)にも柔軟に対応してきたこと、そして審査回答のスピードでした。金利は高くともこのようなメリットがあったため、スルガ銀行は高い収益を誇ってきたことになります。

しかし、メインターゲットを富裕層とすると、銀行に求められる役割が変わる可能性は十分にあります。そもそも富裕層をメインターゲットとしているのは、スルガ銀行だけではありません。スルガ銀行は競合が多い分野で勝負しようとしていることになります。

また富裕層の中には、スルガ銀行から借り入れを行うと、他の銀行から借り入れができなかったからスルガ銀行を頼ったと他行から見られてしまう、と懸念する方もいるでしょう。それでもスルガ銀行が富裕層をメインターゲットとした理由はどのようなものでしょうか。

スルガ銀行、戦略転換の背景

富裕層をターゲットとするとリスクは低下します。ただしその代わりにリターンも低下し、収益率が低下する可能性があります。言い換えれば、スルガ銀行は「目先の収益を減少させてでもリスクを低下させたい」と考えていることになります。これはやはり、シェアハウス問題とその後の顛末が大きく影響しているものと思われます。

ところで、金融で儲かるのは、いわゆるサラ金(消費者金融)のような高利貸しです。高利貸しは信用力が低い人を対象としたことで大きな利益を得てきたという長い歴史があります。

一方で、高利貸しは社会の敵となりがちです。いわゆるサラ金は、1970年代に所得の低いサラリーマン、主婦、自営業者への貸出を拡大しました。貸出を拡大し、業績も大きく伸ばしましたが、世間からは嫌われることになりました。返済に困った債務者を追い込み、自殺者が出る、家庭崩壊となる、といった社会問題になったからです。当時は、「サラ金地獄」などという言葉も聞かれました。

その結果、1983年に「貸金業法」が施行され一定の規制が設けられました。しかしその後、バブル崩壊後に自動契約機での貸し付けがスタートし、テレビコマーシャルがゴールデンタイムなどで解禁になったことも追い風なり、2000年ごろには莫大な利益を計上するようになります。大手業者の中には株式公開して上場企業となる企業まで出現し、創業者一族は日本有数の金持ちとなりました。

2002年の東京都内某所。消費者金融の自動契約機が集まる建物(ウィキメディア・コモンズ)

こうして業界が膨大な利益を計上する一方、多重債務者の自殺増加が指摘され、過去と同様に社会問題化していきます。

そして2006年に貸金業法の改正がなされ、2010年にはグレーゾーン金利が撤廃されると、借入人から過払い返還請求がなされるようになります。消費者金融会社最大手の武富士は破綻に追い込まれ、大手消費者金融はほとんどが銀行の傘下に入りました。

サラ金・消費者金融は「貸付増加による繁栄」と「規制による衰退」を繰り返してきた業界です。

衰退の原因は社会問題化であり、高利貸しは「借入人が悪いのではなく、貸した方が悪い」となることが一般的だと言えます(もちろん、回収のやり方がひどいなど、消費者金融側にも多大な問題はありました)。高利貸しの問題は、商工ローンも同様です。

商工ローンとは、いわゆるノンバンクによる事業者ローンです。サラ金・消費者金融が個人向けであったのに対して、商工ローンは中小零細企業向けでした。商工ローン問題は、無理な融資押しつけ(過剰融資)と違法な取り立てによって、倒産・廃業、自殺、一家離散、家族や保証人を巻き込んでの悲劇などが問題となり、大きな社会問題となりました。

「家売れ」「腎臓売れ」「目玉ひとつを売れ」といった暴力的な違法取り立ての実態が、被害者の録音テープで告発報道され、商工ローン業者の従業員が恐喝と貸金業法違反容疑で逮捕されるといった事件が象徴的でした。

高金利を謳歌して業績絶好調だった商工ローン業者は、社会問題化した後には、銀行からの融資を絞られたり、リーマンショックの影響を受け、大手業者だった日栄(その後ロプロ)、商エファンド(その後SFCG)は破綻しています。

サブプライム問題を振り返る

さらに海外に目を転じれば、米国のサブプライムローンも同様です。サブプライム住宅ローン危機と言われる問題は、2007年から2009年頃に米国で起きた住宅ローンの不良債権問題です。サブプライムローンとは、いわゆる所得の低い個人向けの住宅ローンです。

2000年代に米住宅市場が過熱する中で、銀行や住宅ローン会社は、信用力が低い顧客に対しても競って融資していました。銀行や住宅ローン会社は、住宅や車などを担保とし、当初数年間は低めの固定金利を適用したり、元本の返済を猶予し利息支払いだけに抑えることで、月々の元利払額を抑え、 債務者に借りやすくしたのです。

しかし、サブプライムローンは、借入から数年後には月々の元利払額が急増する高金利のローンでした。住宅価格が値上がりを続ける間は、購入した住宅の担保価値が上がり、その建物を担保とすることで低金利のローンに借り換えることが出来たため、低所得者が住宅を購入できたのです。ただ、住宅価格の上昇が止まってしまうと借り換えが出来なくなり、高金利の利息支払いが出来なくなり、ローン破綻者が続出しました。今振り返って冷静に考えると、サブプライムローンも、信用力の低い個人向けの高金利貸出でしかなかったということです。

スルガ銀行が富裕層をメインターゲットとする理由

ここまで、消費者金融、商工ローン、そしてサブプライムローンの事例を見てきました。

いずれも、信用力の低い債務者を対象とした高利貸しビジネスであり、一時期は膨大な収益を上げますが、最後には社会・政治問題化して終わっています。事業者は破綻したところも出ました。

これらの事例から、金融事業者が得られる教訓は何でしょうか。

高利貸しビジネスは「短期的には儲かるビジネス」です。ただし目立ち過ぎると、社会を敵に回すという想定されていないリスクを取る可能性があるといえます。人は追いつめられると思わぬ反撃に出るものです。

今回、スルガ銀行は、この高利貸しビジネスの中長期的なリスク、すなわち社会問題化するリスクについて学んだのではないでしょうか。

法律では貸し手責任は明文化されておらず、判例でも詐欺まがいの行為でなければ、貸し手責任は認められてきませんでした。それでも、「社会の敵」となったことで、スルガ銀行はシェアハウス問題の解決、すなわち借金の棒引きに近いことを認めざるを得なかったのでしょう。

過去の事例を鑑みると、社会の敵になる要因は、「多数の」「所得の低い人、資産を持たない人に」「無理に」貸すことだと思われます。高利貸しは、一時的には儲かったり、もしかすると感謝されたりしますが、どこかで反転するのです。

一方で、富裕層のような所得や資産を持つ層への貸出は、何か問題が起きたとしても社会問題化することは少ないのが実情です。

まず、所得や資産がありますので、貸出の回収が滞る確率は低いことになります。また、所得や資産がありますので、生活を続けられなくなるぐらいに借金で追い込まれ銀行に反撃する可能性も低くなります。そして、富裕層は多数存在しないから富裕層であり、社会問題化するほどには世の中に存在しません。さらに、富裕層が銀行と問題を起こしても、富裕層も世の中から「妬み」の目で見られています。世間は銀行の味方をすることはほとんどありませんが、富裕層の味方をする可能性も低いでしょう。

これらのことを考えて、中長期に稼ぐなら富裕層取引を拡大させたいとスルガ銀行は考えたのではないでしょうか。この計画が上手くいくか否かは筆者には分かりません。

ただし、富裕層がスルガ銀行と付き合いたいと考えるかには疑問を持っています。スルガ銀行との取引がある場合、前述の通り「どの銀行も貸してくれなかったので、困ってスルガ銀行にお金を借りた」と他の銀行が認識する可能性はあります。

また、社会的に問題となった銀行とそもそも付き合いたいと考える個人は少ないでしょう。スルガ銀行が富裕層取引を拡大するためには、富裕層が求める「儲け話」、すなわち情報や不動産物件を提供していかなければなりません。それが今のスルガ銀行にできるでしょうか。

スルガ銀行の今後に注目していきたいと思います。

                                                  株式会社寧広