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管理状態の良いマンションに、自治体がお墨付きを与える「マンション管理計画認定制度」が4月にスタートする。

同制度は、建物の老朽化に歯止めをかける修繕計画が作成されているかどうかや、修繕積立金が十分に確保できる仕組みがあるかどうかをチェックするためのもの。認定されたマンションは、市場で高く評価されるなどのメリットも期待できる。

制度開始に向けて、国土交通省が昨年11月末にガイドラインを公表、認定基準の詳細が明らかになった。区分マンションに投資する不動産投資家にとっても、物件の管理状態を判断する上で参考になりそうだ。認定制度が普及すれば、今後は管理状態の良し悪しが市場価格に反映される可能性もあり、中古マンション市場にどのような影響が出てくるかが注目される。

老朽化するマンション

制度創設の背景にあるのは、築40年以上の高経年マンションの増加だ。国土交通省によると、築40年超のマンションは、2020年末現在で103万戸。分譲マンションストック数全体の約15%を占める。10年後には約2.2倍の232万戸、20年後には約3.9倍の405万戸となる見込みだ。

このままいけば、住民の高齢化や修繕積立金の不足などで維持管理に行き詰まるマンションが急増するとみられている。管理不全のマンションは住環境の悪化により住む人が減り、治安が悪くなる、といった悪循環に陥る可能性がある。

こうした事情を踏まえ、マンションの維持管理を適正化し、老朽化を抑制する目的で国は2020年に「マンション管理適正化法」を改正。法律に基づき「マンション管理計画認定制度」などが創設された。これにより、自治体が適切な管理を行うマンションを認定したり、管理が不適切なマンションに対しては指導・助言・勧告を行うことができるようになった。

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認定制度の対象となるのは、「マンション管理適正化推進計画」を作成した自治体にあるマンションだ。推進計画では、自治体がマンションの管理状況の実態を把握する方法などを定める。作成は任意で、マンションが多い自治体を中心に作成が進むとみられる。制度開始に向けて、現段階では多くの自治体が作成を検討中の段階。国土交通省は、今後10年以内に約7割の自治体が作成すると見込む。

推進計画を作成した自治体では4月以降、マンション管理組合が総会を開いて認定を申請することができる。認定は5年間有効で、基準に適合するマンションをネット上で公表する仕組みも検討されている。認定されたマンションは市場で高く評価されるなどのメリットが期待される。また、基準に適合するマンションを購入する人向けに、フラット35の金利優遇なども検討されている。不動産投資家にとっては、実需向けの売却がしやすくなるメリットが期待できそうだ。

17項目の認定基準

昨年11月末に公表された認定基準は、全部で17項目だ。「管理規約が作成されている」など基本的な項目もあるが、多くの既存マンションにとってハードルが高いものも含まれている。判定の結果は「認定」か「非認定」のいずれかで、「認定」されるためには、17項目すべての基準を満たす必要がある。

 認定基準

1.管理組合の管理者が定められている

2.管理組合の監事が選任されている

3.管理組合の集会が年1回以上開かれている

4.管理規約が作成されている

5.管理規約で緊急時の専有部立ち入り、修繕履歴情報について定めている

6.管理組合の財務・管理情報に交付に関する規定がある

7.管理費と修繕積立金を明確に区分して経理が行われている

8.修繕積立金会計から他の会計に充当されていない

9.修繕積立金の3ヶ月以上の滞納額が1割以内

10.長期修繕計画の作成、修繕積立金額について集会で決議されている

11.長期修繕計画の作成または見直しが7年以内に行われている

12.長期修繕計画の期間が30年以上で、残存期間内に大規模修繕工事を2回以上含む

13.長期修繕計画で将来の一時的な修繕積立金の徴収を予定していない

14.修繕積立金の平均額が著しく低額でない

15.長期修繕計画の最終年度に借入金の残高がない

16.組合員名簿、居住者名簿を毎年更新している

17.  自治体独自の基準に適合している

中古マンション市場への影響は

区分マンションを投資対象とする不動産投資家には、どのような影響が考えられるのだろうか。東京都内で総戸数500戸超のマンションで管理組合役員を務める應田(おうた)治彦さんは、不動産投資家が受けるメリットを2点挙げる。

1つは、今後、中古マンションの価値を判断する材料として、マンションの管理状態を加味しやすくなることだ。マンションの管理状態は、これまで客観的な判断基準がなく、中古マンションの価格にも反映されていなかった。

「これまでは積立金が多くても少なくても流通価格に大差はなかった。途中で売り買いする投資家にとっては、支払った積立金は次の人にあげるも同然だっただろう。マンションの管理状態が比較できるようになれば、よりよい物件が選ばれ、管理状態の良い中古マンションは価格が上がる可能性がある。積立金を支払った分だけ、マンションが高く売れるようになれば、積立金に対する意識も変わるのではないか」(應田さん)

もう1つは、修繕積立金が不足した場合などに徴収される可能性がある「一時金」の支出を避けられることだ。一時金は、大規模修繕を実施する際に積立金の不足を補う目的で、一時的に修繕積立金を増額するなどして徴収される場合がある。区分マンションを購入するタイミングとこの一時金を徴収するタイミングと重なってしまった場合、予期せぬ支出が発生してしまう可能性があるのだ。認定を受けたマンションなら、積立金が不足しないように計画されているため、そのようなリスクをあらかじめ避けることができる。

認定の難易度は

では、これらの基準をすべてクリアして認定を受けることは、どれくらいの難易度なのだろうか。国土交通省は「既存マンションの3~4割程度がクリアできる基準」としている。一方、應田さんは「1つでも基準を満たしていない場合は『非認定』になってしまう。認定を受けられるのは既存マンションの1~2割程度になるのではないか」と受け止める。

應田さんは、17項目の中でも特に(12)~(14)は、「多くのマンションでクリアするのが難しいのではないか」と予測する。

それぞれの基準について、ガイドラインではどのように示されているのか、もう少し詳しく見てみよう。

12.長期修繕計画の期間が30年以上で、残存期間内に大規模修繕工事を2回以上含む

国土交通省が昨年9月に改訂した長期修繕計画作成ガイドラインに沿って、期間が30年以上の長期修繕計画を策定していることが必要だ。さらに、計画期間中に今後2回以上の大規模修繕工事が予定されていなければならない。

これについて、應田さんは「新築ならともかく、例えば築20年くらいのマンションで築50年までの長期修繕計画を作成しているところは少ないだろう」と、現状では多くの中古マンションが基準を満たしていない可能性を指摘する。

13.長期修繕計画で将来の一時的な修繕積立金の徴収を予定していない

ガイドラインによると、「一時的な修繕積立金」とみなされるのは、次の2つの条件を満たした場合だ。1つは、大規模修繕工事を開始する前々年度から、工事を完了した翌々年度までの修繕積立金の増額幅が2倍以上となっていること。もう1つは、修繕積立金を増額した期間が工事開始の前々年度以降から工事完了の翌々年度以前までに限ったものであることだ。例えば、工事が1年以内の場合は、工事期間を含む5年間が対象となる。

應田さんによると、一般的なマンションでは新築時に一時金を集めるなどして1回目の大規模修繕の費用は捻出できるように計画されている。しかし、2回目の大規模修繕を行うためには、積立金を値上げするか、再度所有者から一時金を徴収するかしなければならない。このため、「2回目の大規模修繕を実施する前に一時金を徴収することはよくある」という。

14.修繕積立金の平均額が著しく低額でない

国土交通省は昨年9月、修繕積立金に関するガイドラインを改訂。修繕積立金が、このガイドラインで目安として示された下限値より高くなければならない。下限値は、延べ床面積や建物の階数によって異なり、例えば地上20階以上の超高層マンションの場合、占有面積1平米当たり240円/月とされている。

この基準についても、應田さんは「目安となる下限値が高すぎる」と指摘する。管理組合や管理会社が努力して修繕費用を安く抑えるように長期修繕計画を立て、積立金を抑えているケースもあるといい「一律の基準を適用した結果、そのようなマンションまで低い評価を受けてしまうのは、問題ではないか」と懸念する。

区分マンションに投資する不動産投資家にとって、管理費と修繕積立金は無視できないものだろう。入居者が支払う「家賃」とは違い、所有者である投資家が負担しなければならないからだ。管理費と修繕積立金の割合が高いほど、実質利回りが下がる。管理費や修繕積立金は「低い方がいい」というのが多くの投資家の本音だろう。

マンション管理計画認定制度がスタートすると、管理状態が良好なマンションではメリットが期待できる一方、すでに保有しているマンションの管理状態に問題がある場合は、売却時にデメリットとなる可能性もある。今後、中古物件を選定するにあたっては、将来的にどのような大規模修繕が予定されているのか、修繕積立金が不足しないか、といった点も重視して物件を選定していく必要がありそうだ。

                                                株式会社寧広