ブームの影でトラブルも、「山林売買」の落とし穴

コロナ禍でのアウトドアブームなどを背景に、「山を買う」ことに興味を持つ人が増えているようだ。かつては山に生えている木を伐採し、住宅向けなどの木材として売る林業者が山林取引のメインだったが、近年は山林売買仲介サイトなどを通じて個人からの問い合わせも増えているという。

山林は宅地に比べて安価な一方、宅地にはない規制も多く、「期待していた使い方ができない」といったトラブルも起こりやすい。なじみがない人も多い「山林」の購入事例やトラブル事例から、投資対象としてのメリットやデメリットについて考える。

山への関心高まる背景は

「数年前まで、山林の購入者は木材を伐採して販売する林業関係者が中心でした。しかし、最近は個人でも山を買うことに関心を持つ人が増えている印象です。山林売買仲介サイトへのアクセス数や売買件数も増えています。コロナ禍で密を避けながら楽しめるレジャーとしてキャンプが流行り、自分の山を持ちたいというニーズも生まれています」

こう話すのは、山林売買の仲介サイト「山いちば」を運営する比賀真吾代表だ。比賀代表によると、こうした背景には、コロナ禍でアウトドアに注目が集まったことに加え、住宅用に使われる外国産材の価格が高騰した「ウッドショック」の影響がある。

低価格の外国産材の輸入などにより、国産材の需要はこれまで長い間低迷。しかし近年、北米を中心とした外国産材の輸入量がコロナなどの影響で減少し、それに伴い国産のスギやヒノキといった代表的な木材価格が上昇傾向にあるという。比賀代表は「今後の国産材価格の上昇を期待して投資目的で山林を購入しようという人もいます」と話す。

そもそも山林の取引はどれくらい行われているのだろうか。国土交通省が公表している「2020年土地保有・動態調査」によると、2019年の1年間に国内で取引された土地のうち、山林の取引件数は8万1181件で全体の5.6%。一方、取引面積では37%を占め、宅地や田畑を上回る。過去10年間は、取引件数、面積ともにほぼ横ばいで推移している。

山林の取引は宅地とどのような違いがあり、価格はどのように決まるのだろうか。

比賀代表によると、山林の価格は「土地の価格」に加え、山に生えている樹木「立木(りゅうぼく)」の価格が反映される。立木の価格は樹種、樹齢、手入れ状況などを考慮した上、市場の木材価格を参考に算出される。「天然林」よりも生えている密度が高い「人工林」の方が価格が高く、樹種では用途が広いヒノキやスギの評価が高い。「スギやヒノキの人工林の場合、土地よりも上物に価値があるというケースが多い」(比賀代表)という。

「植林後50~60年の山林を買って10~15年をかけて木を太らせ、相場がいい時に売るのが利益を出しやすい」と語る比賀代表。木を売却する方法は、地域によって地面に生えたまま売る方法と、業者などに伐採や運搬を委託して丸太として売る方法がある。木の種類や生育状況などによっても異なるが、スギの人工林1ヘクタールを伐採すると、およそ100万円の収入に。林道からのアクセスのしやすさによって伐採や運搬にかかる費用が変わり、収支に影響するという。

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こうした立木の売買で得た収入は、山林の取得から5年以上が経過している場合、「山林所得」として税制面で優遇される。山林所得は分離課税となり、「5分5乗方式」という特別な方式でほかの所得と分けて所得課税額を算出する。

山林の維持管理を目的とした補助金制度もある。下刈り、間伐、枝打ち、林道整備などが対象で「森林の整備にかかる費用は補助金の範囲内で賄うことが可能」(比賀代表)という。

最近は山いちばのような仲介サイトから物件情報を手軽に閲覧できるようになったこともあり、個人からの問い合わせも増えている。山林の購入目的は、キャンプのようなレジャー目的もあれば、太陽光発電の用地や資材置き場としての活用などもあるという。

東京ドーム9個分の山林を800万円で購入

キャンプ場を作る目的で山を購入した人がいる。兵庫県北西部の山あいに今年4月にプレオープンした「おじろじろキャンプ場」。SNSを中心に口コミが広がり、ハイシーズンの土日は予約が取れないほどの人気ぶりだ。「都会にはない星空が見られる」「サバイバル感たっぷりのキャンプ場」といった感想がSNSに投稿されている。

自分たちで一から作ったキャンプ場を紹介する上山さん夫妻

ここを運営する上山恭平さんと知沙子さん夫妻(鳥取県在住)は、キャンプの趣味が高じて山の購入に至った。キャンプは夫婦共通の趣味で、これまでに関西各地のキャンプ場を利用してきたという。夫婦はいつしか「自分たちの理想のキャンプ場を作りたい」と思うようになっていた。山林を専門にする売買仲介サイトなどで情報収集し3年前、兵庫県香美町で東京ドーム9個分の広さにあたる13万坪の山林を800万円で手に入れた。

当時住んでいた大阪府を拠点に、関西地方の山をいくつか検討したという上山さん夫婦。この地域に「一目ぼれ」し、当初300万円ほどと考えていた予算をオーバーしていたが購入を決めたそう。購入資金は、貯金のほかに、夫婦それぞれの親からも協力を得て工面し、現金で購入した。また、ヒノキなどの立木を森林組合を通して伐採・売却して得た200万円も初期費用に充てた。

「はじめは妄想で『キャンプ場を作りたい』という話をしていたんです。山を買うなんて考えてもいませんでした。ネットで調べるうちに、手の届く値段であることが分かって、いつの間にか、本気で『買いたい』と思うようになっていました」

購入に至った経緯について、夫婦はこう口をそろえる。購入後2年ほどをかけて、夫婦で会社勤めをする傍ら、週末は山へ足を運び、下草を刈るなど少しずつキャンプができる環境を整えていった。キャンプ場に必要な水道や電気を敷設し、管理棟や仮設トイレなど必要最低限の設備をそろえた。

購入した山林のうち、実際にキャンプ場として使用するのは1万8000坪ほど。13万坪のうち約7割は、伐採などが規制される「保安林」だが、土地を分割して購入することができないためセットで購入することになったそうだ。キャンプ場以外の広大な山林の管理は地元の森林組合に任せている。活用できるエリアは限られるが、それでも想定より広い敷地が確保できたこともあり、キャンプ場の経営に専念するため、今年3月には夫婦そろって勤め先を退職した。

キャンプ場として集客を始めたものの、広大な敷地の整備はまだ道半ば。炊事場や入浴施設など快適にキャンプができる設備も充実させていく予定だ。一般的なキャンプ場の利用料金は1人3000~4000円だが、現在は正式なオープン前の「プレオープン期間」として、大人1泊1500円~2000円と低めに設定している。

4月以降の利用客は月平均で約80人だったが、ハイシーズンとなる8月は約150人に倍増。完全予約制で1日当たりの受け入れを20組前後に制限していることもあり、週末は予約で枠が埋まることもしばしばだ。知沙子さんは「プレオープン中なので収入は経費を賄える程度で、まだ利益は出ていませんが、集客は順調です」と話す。

インタビューに応える上山さん夫妻

キャンプ場として運営する以外にも、定額制で山林の一部を自由に使えるプランが人気を集めている。月額1万円で約300~400平米の区画が使い放題となるというもの。整備していない区画を掘削したり、工作物を作ったりするのも自由で「自然の中に秘密基地を作るような感覚で利用できる」(恭平さん)。

キャンプ場を運営するためには、どのくらいの費用がかかるのだろうか。

上山さん夫婦の場合、敷地内の整備のほとんどをDIY。道を整備するための重機を約300万円で購入したほか、管理で広大な敷地内を移動するための軽トラック、チェーンソーなどをそろえた。山林の購入費用と合わせると、初期費用として約1200万円を投じた。このほか、ランニングコストとしては、重機用の燃料費や敷地を整備するための資材、電気代など平均で月10万ほどがかかる。固定資産税は、保安林部分には課税されないこともあり年間2万円ほどだという。

12月から3月までは積雪のためキャンプ場の営業は休止し、来年春から再開する予定だ。時期は未定だが正式オープン後は、料金設定を見直し、通年での収支黒字化を目指す。稼働率は全国平均より高い40%を目標にする。周辺のキャンプ場の料金相場や稼働率などを参考に立てた収支シミュレーションでは、5年以内に初期投資費用を回収する計画という。

絶景の地…自然公園法適用と知らず

一方で、初めて購入した山林で、想定外のトラブルに巻き込まれてしまった人もいる。長崎県に住むHさんだ。

Hさんは昨年末、仲介サイトを通じて佐世保市内の約2000坪の山林を110万円で購入した。Hさんの自宅からは2時間半ほどの場所で、国立公園に指定されている景勝地「九十九島(くじゅうくしま)」を見渡せる。大小208の島々からなる一帯は、「西海国立公園」に指定され、自然海岸のまま保全された美しい風景が広がる。

自然公園法で木の伐採などが制限されている九十九島(PHOTO: PIXSTAR / PIXTA)

「海に近い山林は珍しく、釣りが好きなこともあって、いい場所だと思いました。小屋を建てたり、道を作ったりして、釣りに行くための拠点にしようと、釣り仲間にも話して楽しみにしていたんです」と購入当時を振り返るHさん。

重機を購入し、1カ月半ほどをかけて、釣りの前後に立ち寄れる小屋を建て、周辺の木を何本か刈るなど周辺を手入れした。電気や水道設備の工事費用も含め、約300万円を投じた。当初は「自分で利用するつもりだった」というHさん。公道に面した場所に小屋を建てたため、「買いたい」という人も現れ、購入と整備にかかった金額よりも「高く売れるなら」と売却を検討し始めた。

Hさんが購入した山林の敷地に「休憩用」として建てた小屋

環境省から思いもよらない連絡があったのは、その矢先だった。Hさんが購入した土地は「自然公園法」で定められた国立公園内にあり、木の伐採や工作物の新改築などの開発行為をするには許可申請が必要だったのだ。

自然公園法では、景観の保護や生物多様性の確保を目的に、国が管理する「国立公園」や都道府県が管理する「国定公園」、「都道府県立自然公園」を指定。全国に約400カ所あり、民有地も含まれている。木の伐採などの開発行為は許可または届け出が必要で、違反すると、懲役や罰金を科せられる可能性もある。

環境省から「木を1本切るのにも許可がいるのに、あなたは小屋まで建ててしまっています。犯罪になります」と注意を受けたHさん。購入した山林に自然公園法が適用されていたことは、その時初めて知ったという。「そういった説明は仲介会社からも一切なく、売主がサイトに記載した情報には『宅地としても活用できる』とまで書いてありました。何も知らずに木を切って、小屋を建てていたんです。環境省からの連絡は、青天の霹靂でした」(Hさん)

Hさんは、事情を説明し、建てた小屋の状況などについて事後的に申請書類を提出。環境省の判断を待っている。

「木を切ることも、小屋を建てることもできない土地だと知っていれば、1万円でも買わなかったでしょう。購入費用や整備費用として投じた数百万円を返してほしいです」と怒りをあらわにするHさん。その後、仲介会社に問い合わせたところ、仲介会社も自然公園法については把握していなかったことが判明。Hさんが支払った手数料の一部を返還すると言われたものの、そのほかの費用については一切賠償の意思はないという。

山林の売買でも、宅地のように「重要事項説明」で物件情報についての説明義務が仲介会社にあると思っていたHさん。仲介会社の対応に納得がいかず、行政などにも問い合わせる中で、山林の売買は宅建業法の対象外となり、重要事項説明が不十分でも仲介業者の責任を問えないことを知った。

「なぜ買った側だけがこんなにも苦労しなければならないのでしょうか」と悔しさをにじませるHさん。一方で「仲介業者や売主の言うことを鵜呑みにしていたり、自分でよく調べずに小規模な工事なら届け出は必要ないだろう、と勝手に判断していたりといった部分は、自分にも甘さがあった」と反省点を挙げる。

山林投資の注意点は

山林を購入した後に、このようなトラブルに発展するケースは珍しくないようだ。山いちばの比賀代表が説明する。

「山林は規制が多く、目的に沿った利用ができずにトラブルになるケースは多いです。仲介する不動産会社が山林に関する規制を把握していない場合もありますし、そもそも宅地と違い、山林の場合は重要事項などの説明義務はありません」

山林投資の注意点などについて説明する「山いちば」の比賀代表

規制対象となる山林として代表的なものは、土砂崩れなどの災害防止や、生活環境の保全などを目的に、森林法で定められた「保安林」。立木の伐採や間伐に許可や届け出が必要なほか、伐採した後の植栽が義務づけられており、地面の掘削なども制限される。2017年から罰則が強化されており、無許可でこれらの行為をした場合、3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される可能性がある。

森林法や自然公園法のほかにも災害の防止や景観の保護などを目的に、自治体ごとにルールが定められている場合も。こうした規制がある一方で、すでに家が建っているなど現況で宅地として扱われる場合を除き、山林の売買は宅建業法の対象外となる。Hさんのケースのように、どのような規制の対象になるかなどは山林であっても購入の意思決定に重要な情報だ。しかし、説明されていなかった場合でも、宅建業法に基づいて仲介業者の責任は問えない。こうした実情を踏まえ、比嘉代表は次のようにアドバイスする。

「山林の規制は市町村によっても異なるため、購入する山林がどのような規制の対象になっているかを確認するのは、その山林がある市町村に問い合わせるのが確実です。仲介業者や売主の説明を鵜呑みにするのではなく、セカンドオピニオンのようなつもりで、必ず市町村に確認するべきです」

比賀代表によると、規制がある山以外にもいくつか注意点がある。最も買ってはいけないのは、「住宅地に近い傾斜地の山林」。木が倒れたり、斜面が崩落したりした場合に、人や建物に被害が出て、法的な責任を負う恐れがあるからだ。このような山林は、買い手がつきにくいため、価格が低くなる傾向がある。また、山林は敷地が広大なゆえに、境界線があいまいな土地も珍しくない。このような場合、隣接地の所有者とトラブルになるリスクも負う。

アウトドアブームや国産材の価格上昇といった要因で、以前よりも注目されるようになった山林。広大な土地を安く手に入れられる一方で、宅地とは異なる規制が多く、思い描いたような活用ができないなど注意点も多い。

災害防止や自然環境の保護といった観点で、森林が持つ社会的な役割も大きい。木を育てて売るということを考えれば、中長期的な視点も必要になる。山林への投資を検討する際は、こうした認識を持った上で、しっかりと活用方法を考えたい。