「重要だ」と答えた不動産投資家が約7割!「リスク・リターン」だけではない。これからの不動産投資は「ESG」がカギになる?

国を挙げて進む「不動産のESG投資」
国土交通省は基本的な考え方を明示

近年は、メディアなどで取り上げられ、徐々に認知度を高めている「ESG」というワード。「環境(Environment)」「社会(Social)「ガバナンス(Governance)」の頭文字を取った造語であり、これを意識した取り組みを指す。3つの観点から企業を分析・評価して投資する「ESG」投資は、保険会社など機関投資家が積極的に進めていて、財務諸表の内容を重視する一般的な投資に比べて高いパフォーマンスを実現するケースもあるという。

環境や社会、ガバナンスに配慮する取り組みとして知られる「ESG」。企業投資で意識される分野だが、近年は「不動産のESG投資」も浸透しつつある。
環境や社会、ガバナンスに配慮する取り組みとして知られる「ESG」。企業投資で意識される分野だが、近年は「不動産のESG投資」も浸透しつつある。

そしていま、ESGの考えは不動産投資にも波及し始めている。認知度を問わず不動産投資家の約7割が、リスク・リターンの二軸だけではなく、第三軸である環境・社会・ガバナンスの「社会的インパクト」も意識した物件選びが重要だと考えていることが、ある調査で明らかになった。

実施したのは、投資用不動産を扱う株式会社グローバル・リンク・マネジメント(GLM)が2019年に設立した、「グローバル都市不動産研究所」だ。「東京の都市開発の未来予測」や「不動産を核とした新サービスの開発」などの情報を発信しているが、そのひとつとして調査・研究事業も展開。今回は全国の投資用不動産保有者400名を対象に、「ESGに対する意識調査」を行い、結果を3月5日に発表した。

その背景を、「当社では『不動産を通じて豊かな社会を実現する』ことを企業理念に掲げており、今後は豊かな社会を実現するため不動産投資でもESGの視点が求められるようになると考え、意識調査を行いました」と、GLM経営企画部の近藤愛実さんは答える。

今回の調査では「不動産のESG投資」を、「企業・団体等への投資ではなく、不動産投資においてリスク・リターンだけではなく、環境・社会に対する好悪の影響を考慮すること」と定義。そのうえで、「ESG」の認知を尋ねたところ「聞いたことがある」は33.8%。認知度は高いといえなかった。ただし、年代別で見ると30代(35.8%)、40代(29.2%)、50代(31.5%)、60代(24.1%)に対して、20代は51.9%が認知。「若い世代は学校の授業やメディアでESGについて学んでいて、それが差になり現れたのかもしれません」(近藤さん、以下同)と分析する。

次いで、「不動産のESG投資」の認知を尋ねたところ、「知っていた」は24.3%で、全体の4分の3は知らないという結果。ここでも20代(36.5%)の認知率は高く、性別で見ると女性より男性の方が「知っている」と答えた割合は多かった。

「ESG」や「不動産のESG投資」に対する認知度は低いのが現状。ただし、若い世代の認知率は高い。今後、投資家が世代交代していくなら「知っている」層が増えていくのでは? 出典:株式会社グローバル・リンク・マネジメント・プレスリリース
「ESG」や「不動産のESG投資」に対する認知度は低いのが現状。ただし、若い世代の認知率は高い。今後、投資家が世代交代していくなら「知っている」層が増えていくのでは?
出典:株式会社グローバル・リンク・マネジメント・プレスリリース

現状では認知度の低い「不動産のESG投資」だが、国は取り組みを始めている。国土交通省は人口減少や少子高齢化、地球温暖化対策、防災減災等の課題に対応する不動産の形成を進めるためには、ESGやSDGsに沿った中長期的な投資を多様な投資家から安定的に呼び込むための環境整備が必要と考え、「ESG不動産投資のあり方検討会」を設置。19年に「中間とりまとめ」を公表し、現在もESG不動産投資の促進に向け検討をしている。

ESGに配慮した不動産とは具体的に何を指すのか。中間とりまとめでは次のように示している。

・環境へのインパクト
省エネ性能などの高い建物への新築・改修。光熱費の削減につながり、中長期的に不動産価値に反映される可能性がある。

・社会へのインパクト
働く人の健康性・快適性に優れたオフィスは、テナントの魅力向上につながり不動産価値にも反映。不動産開発に伴う雇用・イノベーションが地域社会・経済に寄与、災害や超少子高齢化への対応も同様の効果が期待できる。

「住居であれば、アレルギーや防カビ、騒音を低減する素材を使っていると、入居者の健康性や快適性に寄与しますし、省エネ性能が高い物件は光熱費が抑えられます。従業員のための休憩室やパウダールームがあると『ここで働きたい』という気持ちになるでしょうし、保育園や高齢者施設は少子高齢化を解決するために必要です。こうした、環境や社会に配慮した物件に投資することが、不動産のESG投資といえます」

不動産のESG投資の具体的なインパクトと投資テーマ・指標。その内容は多岐にわたり、個人の不動産投資にも関わってくる内容が目立つ。 出典:「ESG不動産投資のあり方検討会」中間とりまとめ
不動産のESG投資の具体的なインパクトと投資テーマ・指標。その内容は多岐にわたり、個人の不動産投資にも関わってくる内容が目立つ。
出典:「ESG不動産投資のあり方検討会」中間とりまとめ

投資先を判断する材料・要素として
重視する割合は7割超という結果

不動産のESG投資の認知を問わず、先述のような内容が投資先を判断する材料・要素として重要かどうかを尋ねる質問に対しては、「重要だと思う」(25.0%)、「どちらかというと重要だと思う」(48.0%)を合わせると、73.0%が「重要だと思う(計)」と回答。不動産のESG投資を知っていた人の「重要だと思う(計)」は95.9%に達していた。

回答者の多くは、不動産のESG投資を重要だと認識。回答に男女差はほぼなく、年代別では30代、60代、20代、40代、50代の順で高かった。 出典:株式会社グローバル・リンク・マネジメント・プレスリリース
回答者の多くは、不動産のESG投資を重要だと認識。回答に男女差はほぼなく、年代別では30代、60代、20代、40代、50代の順で高かった。
出典:株式会社グローバル・リンク・マネジメント・プレスリリース

興味深いのはここから。「不動産のESG投資が重要だと思う」という回答者にその理由を尋ねた結果が、以下のグラフだ。

資産運用への好影響を期待できることから、不動産のESG投資は重要だと考える人が大半。社会的なインパクトを考慮した物件取得が、リターンにもつながる。 出典:株式会社グローバル・リンク・マネジメント・プレスリリース
資産運用への好影響を期待できることから、不動産のESG投資は重要だと考える人が大半。社会的なインパクトを考慮した物件取得が、リターンにもつながる。
出典:株式会社グローバル・リンク・マネジメント・プレスリリース

「中長期的な資産価値の維持に寄与すると思うため」(51.7%)、「賃料収入などリターンに好影響をもたらすと思うため」(49.3%)がそれぞれ5割前後を占め、資産運用への好影響を期待する答えが多い。

次の「『不動産のESG投資』は、特にどのような分野が重要だと思いますか(複数選択)」に対しては、「地域社会・経済への寄与」(51.7%)が最多。「近隣を巻き込んだ再開発は雇用やアクセスビリティに影響するのでオフィスやテナントとして選ばれやすく、防湿・防音、抗菌・非接触、地震など自然災害へ対応する物件はオフィス・住居ともに空室対策にひと役買います」

不動産のESG投資で重要だと思う分野への回答。ESGに配慮した物件は入居者が「入りたい・住みたい」と思う要因になるため、投資家も重要だと捉えている。 出典:株式会社グローバル・リンク・マネジメント・プレスリリース
不動産のESG投資で重要だと思う分野への回答。ESGに配慮した物件は入居者が「入りたい・住みたい」と思う要因になるため、投資家も重要だと捉えている。
出典:株式会社グローバル・リンク・マネジメント・プレスリリース

これらを踏まえ、「今後、不動産投資をする際に『不動産のESG投資』を意識しますか」という問いに対しては、「必ず意識する」(17.0%)、「投資目的によっては意識すると思う」(45.5%)、「投資対象によっては意識すると思う」(20.8%)。これらを合わせると、条件付きを含めて「意識する(計)」(83.3%)は8割を超えることに。「ESGに配慮した物件は、投資家からすると空室リスクを抑えられる、入居者側は快適に暮らすことができるなど、双方にメリットが期待できます。最近は融資の際に意識する金融機関もあるようで、ESGに対応する物件なのかどうかが審査の一項目になりつつあるようです」

調査を通じて不動産のESG投資について知った回答者は、その重要性を認識。今後の物件取得の指標にしたいと考えている。こうした層が増えると、ESG配慮の物件も増えていくだろう。 出典:株式会社グローバル・リンク・マネジメント・プレスリリース
調査を通じて不動産のESG投資について知った回答者は、その重要性を認識。今後の物件取得の指標にしたいと考えている。こうした層が増えると、ESG配慮の物件も増えていくだろう。
出典:株式会社グローバル・リンク・マネジメント・プレスリリース

近藤さんによると、「不動産のESG投資は海外では当たり前のテーマ。今後は国内でも改めて認識されるようになると思います」とのこと。とりわけ、賃貸ニーズの高い若い世代は同じ立地に建つ物件ならESG対応を選ぶなど、入居者の決め手になっていく可能性が高い。投資家としては押さえておきたいポイントであり、「当社としても物件開発に役立てたいと思います」という。

ただし気になるのは、ESG対応の物件はそうでない物件に比べると、コストがかかる可能性があること。投資家としては、なるべく安く調達したいはずだ。これについてグローバル都市不動産研究所は、「同じ立地・用途の場合、ESG対応・未対応の物件で許容できる価格差」についても尋ねている。

その結果、約30%は「価格差があるならESG物件は買わない」とシビアな回答。重要だと分かっていても、背に腹は代えられない。ただし一方で、「1~2%は許容する」(16%)、「3~4%は許容する」(21%)、「5~6%は許容する」(23%)という答えも。なんと、回答者の6割は1~6%価格は高くても、ESG物件を検討するという。

GLMの調査で分かったのは、不動産のESG投資の認知度は低いものの、その内容を大事だと思う投資家は多いということ。それは、資産価値や入居率に影響するからだ。今後、言葉や意味がさらに浸透すると、重視する投資家は増えていくのではないだろうか。「不動産投資は儲かってなんぼ」と考えている人は、思考のアップデートを迫られるかもしれない。

                                                 株式会社寧広