「架空請求400件」のエイブル訴訟、管理トラブルはどう防ぐ

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今月6日、不動産賃貸仲介のエイブル(東京)に、架空の修繕費を請求されたなど損害を受けたとして、ファインマネジメント社(大阪)が約2億8000万円の損害賠償を求め提訴した。

ファインマネジメント社は、2010年から大阪市内にある複数のマンションをエイブルに管理委託。管理全般から家賃徴収などを任せていた。今回の訴訟の背景にはどのような事情があるのか。そして訴訟ではどのような点が争点となるのか。関係者に取材した。

また、こうした不動産管理に関するトラブルは、すべてのオーナーにとって他人事ではない。そこで、これまで管理会社とトラブルを経験したというオーナーにも話を聞いた。今後、管理会社と良好な関係性を築き、賃貸業を行っていくための役に立ててほしい。

10年で約400件の架空請求か

ファインマネジメント社の代理人である藤原航弁護士によれば、エイブルからの賃料支払いが滞っていることをきっかけに調査を進めた結果、約400件の架空の修繕費が請求されていることなどが発覚したという。

物件の状況を改めて確認し、損害の状況を整理したファインマネジメント社は、6つの事項からエイブル側に対して損害賠償2億7906万円を請求した。請求した損害賠償の内訳は下記の通りだという。

<損害賠償の内訳>

1 リフォームの架空請求 6150万円
2 水漏れなど、緊急工事としての請求 5255万円
3 賃料の未払い 5056万円
4 入居募集が行われていなかった空室の機会損失 6544万円
5 10年間の業務委託費用 2364万円
6 弁護士費用 2537万円

ファインマネジメント社側は、修繕の架空請求の他にも、水漏れが放置された部屋の応急工事がされず、入居者の新規募集ができなかったなど、損害を被ったと主張している。

さらにファインマネジメント社の藤原弁護士は、「エイブル側が発行した修繕費の請求書を確認すると、記載された振込先は実態がない会社の個人名義口座になっていた。その会社に施工能力があったかどうかも現在調査中」と話す。

一方、エイブル側は答弁書にて「修繕費の請求は派遣社員が担当した」として、会社は関与していないと反論。ファインマネジメント側にも修繕状況の確認をしなかった過失があると主張した。

楽待新聞編集部がエイブルに問い合わせると、ファインマネジメント社から提訴されていることは事実としつつ、詳細については「法廷尊重の立場から開示は控える」と述べるにとどめた。

今回の訴訟では、どのような点が争点になるのだろうか。不動産投資に詳しい阿部栄一郎弁護士は「両者が結んでいる管理契約の債務不履行が論点になるのでは」と予測する。つまり、エイブルが管理委託契約に基づいて負う義務(家賃徴収や物件管理など)を怠り、ファインマネジメント社に損害を与えたかどうかということだ。

「架空請求は詐欺行為なので、それが本当であれば今回の請求が認められることもあるでしょう。ただ、本当に修繕がされていなかったか、修繕前後の写真など証拠を用いて立証する必要があるため、ファインマネジメント社側にとっては難しい訴訟になるでしょう」(阿部弁護士)

また、エイブル側が「派遣社員がすべて行った」と主張し、派遣社員を刑事告発していることについては、「派遣社員であっても会社組織に所属していた社員であることに変わりない。損害賠償が認められた場合、オーナー会社(ファインマネジメント社)に対する責任をエイブルが免れることはないだろう」と見解を示した。

「自社では起き得ない」

だが実際、エイブル側が主張するように、1担当者がすべての手続きなどを行うことはあり得るのだろうか。

神奈川県一帯で1万2000戸近くを管理請負するウスイホーム不動産管理部部長の山本賢二さんは、1担当者がすべてを担っていたというエイブル側の主張に対し、「これだけ大規模な架空請求が誰にも見つからず行われていたというのは、あまり考えられないのではないか。自社では起き得ないことですね」と話した。

ウスイホーム株式会社 執行役員不動産管理部部長 山本賢二さん

同社では通常、修繕が完了すると必ずオーナーに報告書と修繕箇所の写真を送るよう徹底しているという。また、上司が報告書に目を通し、承認するフローがあるなど、複数人が関わる流れになっている。そのため、修繕がされていないなどの抜け漏れがあった際は、いずれかでアラートが出るような仕組みになっているそうだ。

山本さんによれば、訴訟騒動を受け、管理会社業界では、各社同様のトラブルが発生しないか、修繕をしていないなどの抜け漏れが発生する恐れがないか確認する会社が増えているという。「そういった意味では、この騒動は業界全体に一石を投じる意味があったと思う」(山本さん)

「管理会社にお任せ」が50%超

今回のようなケースは、一般の不動産オーナーにも起こり得る。では、実際にどれくらいの投資家が管理会社に管理を任せているのか。また、管理会社から修繕の報告をどのように受けているのか。

楽待新聞編集部では、物件を保有する投資家にアンケートを実施。保有している物件の管理委託状況について聞いた。

回答者166人のうち、入居者対応や家賃徴収など、管理に係る業務の「すべてを管理会社に依頼している」と回答した人は87人(52%)、「入居者募集や契約など一部の業務を管理会社に依頼している」という人は40人(24%)、「すべて自主管理している」人は39人(24%)という結果だった。

※実施概要 調査期間:2021年7月8日~12日 有効回答数:166

回答のあった投資家の半数以上は、所有物件の管理をすべて管理会社に委託していることが分かる。一部の業務を依頼している人も含めれば、77%と管理会社とともに賃貸業を進めている人は多い。

では、管理委託している投資家は修繕を依頼した際に、その修繕がきちんと行われたかどうかをどのようにして確認しているのだろうか。その方法についてアンケートを行った。(※複数回答可)

最も回答が多かったのは、「写真や動画などを送ってもらう」という対応方法。修繕前後の該当箇所を写真や動画などで撮影してもらい、報告書と一緒に送ってもらう投資家が多いようだ。また、物件に赴き、直接確認する投資家も一定数いることが分かった。

管理会社が清掃してくれず、30万円の実費負担に

アンケートでは、「管理会社とトラブルになったことがあるか」も質問。すると、管理会社から不当な対応を受けたという回答があった。

東京都内を中心に不動産投資を行うKさんは、約30万円の被害を受けたうえに、管理会社変更の際に不当な対応を受けたと話す。前オーナーから管理会社はそのまま引き継ぐ契約で物件を購入したKさんだが、管理料が家賃収入の7%と割高にもかかわらず、定期清掃を怠り、設備故障の対応もしない。杜撰な管理体制に業者変更を決断したという。

「契約解除の申し入れをすると、次第に担当者と連絡が取れなくなり、管理業務を一切してくれなくなりました」とKさん。「業者からの報告では、清掃費用に屋上の清掃費も含まれていました。しかし、屋上を確認すると、屋根にはゴミが大量に散乱しており、詰まりの原因にもなっていました。隣接する小学校から飛んできたサッカーボールが朽ち果てていたので、最後に掃除をしたのがいつのことやら」

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結局自身で清掃業者を手配し、屋根の清掃費用20万円、常夜灯の取り換え修理で10万円、合計30万円を実費負担することになったという。「社員数が1000人を超える規模の大きい会社で信頼していただけに、ショックは大きいですね」と不満を漏らした。

抜き打ちチェックで不備が発覚

また、大阪で自営業を営む傍ら、5物件を保有する投資家のOさんも、あわや架空請求の被害に遭うところだったと話す。

管理を依頼している管理会社から修繕完了の報告を受けたOさん。ふと思い立ち、抜き打ちで現地を確認しに行くと、クロスやパネルの張り替えなど、修繕が全くされていない状態だったという。「まさかという感じでした。すぐに管理会社に連絡しましたが、下請け業者に丸投げしているのか、全く状況を把握しておらず話になりませんでした」。

きちんと修繕をやってほしい旨を伝えると、管理会社からは謝罪と早急に対応する旨の連絡があったという。「キッチンパネルの交換、クロスの張り替え、ハウスクリーニングなどでおよそ8万円程度の修繕でした。現地を確認せずに済ませていたら、その修繕費分を管理会社に取られたままでした」と当時を振り返る。

それ以降、Oさんは修繕の内容を必ず自分の目で確認することにしている。具体的には、リフォーム前とリフォーム後に担当者とビデオ通話を行い、室内の状態を確認する。入居者がいる場合は、リフォーム前とリフォーム後の写真を撮影してもらい、さらに入居者から「正しくリフォームが行われた」という旨のコメントをもらうようにしているという。「些細な報告や確認を怠る、またそういった行為を煩わしいと思う管理会社とはお付き合いしたくないですね」とOさんは考えを語る。

客付け考え「トラブルあっても乗り換えできず」

北関東で専業大家をしている投資家のSさんは、管理会社の報告不足による杜撰な仕事が原因でトラブルになったという。

「ある日、プロパンガス業者から身に覚えのない覚書が届きました。すぐに管理会社に連絡をすると、私の承認なく故障したエアコン数台を勝手に取り換えていたことが分かりました。管理会社担当者の独断で手続きを進めていたことには怒りを感じました」(Sさん)

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幸いにも、給湯器やガスコンロなどを無償で設置してもらうというプロパンガス業者との無償貸与契約の範囲内だったため、金銭的な被害はなかったという。

こういったトラブルが起きつつも、管理会社の変更には踏み切れないというSさん。「管理の状況よりも、空室が埋まらない方がオーナーにとって痛手は大きい。地方の場合は、地場で客付けが強い管理会社は限られるため、結局管理をその会社に依頼するしかないのが実情なんですよ」と吐露する。オーナーにとって、空室による機会損失を防ぐため、管理にある程度譲歩しなければいけない状況もあるようだ。

「オーナーとして、最低限の対応はしてほしい」

投資家が経験した管理会社とのトラブルについて、事例を紹介した。一方で、管理会社はオーナーとの関係性をどのように考えているのだろうか。また、実際に管理委託を受けているオーナーとどのようなトラブルになることがあるのか。

前出のウスイホーム山本さんによれば、オーナーと入居者との間で板挟みになることは珍しくないそうだ。例えば入居者から雨漏りなど修繕の依頼を受けてオーナーに修繕依頼をしても「修繕しません」と答えるオーナーもおり、苦労するという。

「オーナーの言葉を入居者にそのまま伝えるわけにもいかず、説得するためにかなりの時間を使うため、板挟み状態になります。入居者に住まいを貸す以上、オーナーさんには家賃に含まれる最低限の対応はやっていただきたい」と話す。

管理会社としては、どちらかへの対応に偏ってしまうことも問題となる。ウスイホームでは、家賃回収のみなどの管理物件を含め1担当者当たり500戸の物件を担当しており、会社全体では毎月300件近く入居者からの対応依頼を請け負っている。「オーナー様からの依頼には真摯に応えたいのですが、そればかりでは入居者対応の時間が作れず、本末転倒になってしまう」(山本さん)

管理を依頼しているにもかかわらず自分でいろいろやりたがるオーナーにも苦労するという。「こちらが対応しないと管理ができない業務もあるので、管理を依頼するなら任せる部分は任せてほしい。結果的に、入居者に長く住んでもらうことが双方の目的なので、お互いの役割分担を明確にして、物件運営を進めていきたいです」とオーナーに対する気持ちを語った。

事業者としてやるべきことに責任を

管理のトラブルを避けるために、オーナはどのようなことを心がけるべきか。前出の阿部弁護士は、「管理会社に任せきりにするのではなく、オーナー自身が事業者として対応ことも重要だ」と話す。

阿部栄一郎弁護士

「所有物件に関して定期的に報告を受け取り、修繕など出費が発生しているものは、見積書や請求書など、抜け漏れがないか確認することは最低限必須です」。さらに、管理会社から送られてきた写真や動画を確認し、いざという時に備えたデータを丁寧に保管しておくことも重要と話した。

また、人と人との関係性の話なので、たとえ遠い物件だとしても定期的に物件に赴き、管理や修繕状況を把握することは必要だという。管理会社に訪問し、お土産を持参するなど、賃貸業をうまくやっている人ほど、そういった心配りは欠かさずにやっていると話し、良好な関係性構築には地道な努力を惜しまないことも大切だと話す。

今回の訴訟問題では、オーナー側がどの程度修繕に関する資料を提示できるかが、重要なポイントになると阿部弁護士は話す。

管理会社と関わる際も、写真や動画、メールでの記録など、お互いがきちんと情報を残すことも、トラブルを避ける上で必要な対応になるだろう。改めて、管理会社との現状を見直し、良好な関係性を築いていけるような対応をしていきたい。

                                                 株式会社寧広