「不動産投資はインフレに強い」は本当か?

PHOTO:ISSA/PIXTA

このところ「インフレ」という言葉をよく聞くようになったのではないでしょうか。特に米国では、モノやサービスなど物価の動きを表す「消費者物価指数(CPI)」が、2022年1月で前年同月比7.5%上昇するなど、約40年ぶりの高いインフレ率となっています。

こうしたことから、日本においてもインフレに懸念を持つ人が増え、「不動産はインフレに強いから投資しておくべき」というフレーズを聞くことも多くなってきたように思います。

この、「不動産がインフレに強い」という説は、過去から当然のように語られており、疑問の余地はないように感じるかもしれません。しかし、ここであえて問題提起をしてみたいと思います。不動産は、本当にインフレに強いのでしょうか? 今回はこの純粋で素朴な疑問について、皆さまと確認していきたいと思います。

「不動産投資はインフレに強い」と言われる理由

インフレとは、私たちが普段買っている日用品やサービスの値段・価格(物価)が上がることです。

冒頭で、米国の物価が7.5%上がったという話をしました。これは例えるなら、消費税が1年間に7.5%増加するようなものですから、消費者の生活に多大な影響を及ぼします。こうしたことから、インフレを抑制する目的で、連邦準備制度理事会(FRB)は利上げを行う見通しです。

これは日本にとっても対岸の火事ではないかもしれません。世界的なインフレが拡大していけば、日本の輸入物価も上昇していくでしょう。円高になればこの影響を緩和できますが、日銀が金融引き締めに転じて円高を目指す政策を取るのは、現時点では想定しにくいと言えます。

ところで、物価が上がることは、「お金の価値が下がる」ことと言い換えることができます。 例えば、それまで150円で食べることができていたコンビニのおにぎりが2倍の300円になったとすると、おにぎりを買うために以前の2倍のお金が必要になるわけです。つまり、「お金の価値は2分の1になった」と言えます。

このインフレと同じ程度に収入(給与など)が増えていけば、個々人の生活には問題がないでしょう。ただ、少なくとも預貯金の価値は低下します。上述の通りお金の価値が下がるからです。

このインフレの影響を避けるために、不動産投資をした方が良いという意見は古くから存在し、近頃はマスコミの記事や、広告でも見かけるようになってきています。その主な主張は、以下の3点です。

(1)家賃は物価に連動する傾向にある

(2)物価上昇が起きると不動産の価格も上昇する傾向にある

(3)借金の価値がインフレによって目減りして有利になる

これらは、少し経済を学んだことがある人ならば、すんなりと同意できる内容かもしれません。説得力がある主張だと筆者も感じます。ただし、(2)の「物価上昇が起きると不動産の価格も上昇する傾向にある」については、これが本当にそうであるのか、今一度検証する必要があるのではないかと筆者は考えています。

以降では、その理由を順番にお話していきたいと思います。

物価の上昇と不動産価格は関係があるのか?

始めに、物価の上昇と不動産価格に関係があるのか、ということから確認していきたいと思います。

インフレを測るための指標は、「消費者物価指数(CPI)」を使うことが一般的です。ここでは、消費者物価指数と不動産価格の関係について見ていくことにしましょう。

使う数字は、物価については「2020年基準消費者物価指数」(年平均)、不動産価格については「地価公示」(全国平均)とします。簡単に手に入りやすく、誰でも検証可能であるためです。では、まず以下のグラフをご覧ください。消費者物価指数総合と、全国平均の公示地価(全用途と住宅)の長期推移です。

消費者物価指数総合と公示地価の長期推移の比較(政府統計データより著者作成、クリックして拡大)

ここで、先ほどの「物価が上がれば、不動産価格は上がる」という主張について改めて考えてみます。グラフをよく見ると、少なくとも1990年前後のバブル期以降、日本の物価はあまり上昇していないのに対して、公示地価は異なる動きをしているように見えます。

もう1つ、違う角度から別のグラフを見てみましょう。次の2つのグラフのうち、上のグラフは1971年以降の消費者物価指数の変動率、公示地価の前年比変動率をグラフ化したものです。下のグラフは同様のデータから1992年以降を抜き出したものです。

1971年以降の消費者物価指数総合と公示地価の長期推移の比較(政府統計データより著者作成、クリックして拡大)

1992年以降の消費者物価指数総合と公示地価の推移の比較(政府統計データより著者作成、クリックして拡大)

この2つのグラフを見て気づくことは何でしょうか。筆者は、土地価格(公示地価)は、消費者物価指数にも影響はされていると思われるものの、それだけではないと感じられます。

例えば1990年前後のバブルの頃は、消費者物価指数の上昇率以上に公示地価は上昇しています。そして、バブル崩壊過程においては消費者物価指数が上昇していたとしても、公示地価は大幅に下落しています。

またバブル崩壊後であっても、1996~1998年の物価上昇期は、公示地価は下落し続けました。1997年は消費税が3%から5%に増税された年であり、物価が上昇したというよりは消費税が増加した年でしたが、それでも消費税込みの物価が上昇したことは間違いありません。

2014年も消費税が5%から8%に引き上げられた年です。公示地価の下落率は小幅になったとはいえ、公示地価が下落している以上、インフレヘッジとなるとは言えないのではないでしょうか。

インフレヘッジという観点では、2008年のリーマンショックの年では、消費者物価指数と公示地価の上昇には相関性があるように思われましたが、実際には、この時期ぐらいではないでしょうか。

つまり、不動産投資は必ずしもインフレ対策として有効であるとは言えないということです。ここで紹介したものは、非常に単純な数字の比較ではあります。しかし、筆者は単純だからこそ無視してはいけないと思うのです。

                                                 株式会社寧広

マンション価格の推移も考えてみる

ここまで読んで、「首都圏のマンション価格は上がっているじゃないか。これは建築費(≒物価)が上がっているからじゃないのか」という反論があるかもしれません。そこで、今度は以下のグラフで、建築費(≒物価)とマンション価格の関係を確認してみましょう。

マンション価格、住宅建設工事費、地価公示の推移比較(政府統計データより著者作成、クリックして拡大)

このグラフは、マンション価格と住宅建設工事費について、1975年を100とした際の変化を表したものです。参考として、東京圏・住宅の地価公示も入れてあります。

※マンション価格は不動産経済研究所の調査による首都圏の新規発売マンションの平均価格より国土交通省が作成したものです。また、建設工事費は、国土交通省「建設工事費デフレーター」の「住宅建築」より同様に国交省が作成した数字です。ただし、建築工事費は全国値であり、かつ年度値です。また2018~2020年までは暫定値となっています

上記グラフを見て気づかされることは、物価から建設工事費を抜き出しても、首都圏のマンション価格の上昇を説明できないということです。言い方を換えると、首都圏のマンション価格の上昇については、少なくとも建設工事費の影響は少なそうだということです。

そして、首都圏のマンション価格と公示地価の関係を見る限りは、現在は首都圏のマンション価格と公示地価には相関は低くなっており、マンション価格が大幅に上昇していっているという現実です。

これらの事実から言えるであろうと筆者が考えているのは、「首都圏のマンション価格は物価との相関性は薄くなっているということ」であり、「マンション事業者が大手に集約されつつある状況下において用地仕入れ競争の激化とその結果としてのマンション価格の上昇が起きている」ということです。すなわち、首都圏のマンション価格は供給側の仕入れや利益の事情によって価格が上昇しているという予測です。

少なくとも物価、すなわちインフレとはあまり関係がないとは言えるのではないかと思います。

不動産価格は何に連動するのか?

では、不動産価格は何に連動するのでしょうか。これに答えられれば、おそらく筆者はお金持ちになっているのではないかと思います。ただ、単なるサラリーマンである筆者にはその能力がありません。

しかしながら、経験則上、1つ参考になる考え方はあると考えています。それを示すのが以下のグラフです。

地価公示とマネーストックの推移比較(政府統計データより著者作成、クリックして拡大)

このグラフの「M2/平残前年比」は、日銀の統計におけるマネーストックと呼ばれる指標です。日銀の説明を借りれば、マネーストックとは、「中央銀行を含む、金融部門全体から経済に対して供給される通貨」のことです。簡単に理解するならば、「世の中に流通している現預金の総量」だと思えば、あまりずれはないでしょう。

あくまで数字上の話ではありますが、公示地価とマネーストックの変動率の相関係数をエクセルで計算してみると「0.83」となります。1に近くなるほど相関性が高いため、公示地価とマネーストックとの関係は比較的相関性が高いと言えます。すなわち、公示地価という不動産価格と、世の中に流通しているお金の量には何らかの相関性がありそうということです。

あくまで筆者の考えですが、日本において、不動産価格の全体感は、世の中にお金が溢れているか、そして融資が付くかに、大きな影響を受けてきたのではないかと思います。だからこそ、消費者物価指数とはあまり連動していないのです。お上(金融庁、昔の財務省)や銀行の融資姿勢が、不動産価格には大きな影響を与えてきたと考えるのが最も経験則上はフィットします。

したがって、あくまで筆者の考え方ではありますが、日本においてインフレヘッジのためだけに不動産に投資するのは、あまりお勧めできません。確かに、冒頭で紹介したとおり「(1)家賃は物価に連動する傾向にある」「(3)借金の価値がインフレによって目減りして有利になる」ということは言えるかも知れません。しかし、不動産投資のポイントは、やはり立地であり、インフレ対策よりも賃借の需要の方がよほど大事です。

収益物件は、賃料を確保できなければ、インフレ対策には役に立ちません。「インフレ対策として」というような誘いがあっても、それに踊らされることなく、不動産投資を考えていくことこそが長期の成功につながるのではないでしょうか。